2024年03月29日( 金 )

中小企業の現場で実現できるのか 働き方改革の課題とこれからの展望(後)

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人材活用のマネジメントが問われる時代

 働き方改革の時代は、働き方が異なる人がお互いに力を合わせて仕事するパッチワーク型、モザイク型のチームワークになると予想している。

 バリバリ働く人だけでなく、介護や育児などで早く帰る人、体調の問題があって仕事のしすぎに気をつけないといけない人など、それぞれ違った能力や事情を抱えた人が組織をつくり、さまざまな課題に自分の役割をもって立ち向かうなかでのマネジメント力が問われる時代になる。

 労働時間の制限ができたことで、繁忙期とそうでない時期の仕事時間を調整するためにフレックスタイム制を導入する企業が増える可能性もあり、1日8時間という働き方そのものも見直されるとみられている。さらに、従業員の仕事の役割が限定されていないことが日本企業の特徴だが、1日最大の仕事時間が8時間といわれるなかでは、仕事の中身を見直してどこまでがやるべき仕事かとはっきりと決めた働き方に変わる可能性が高い。

 また、人がする仕事と、人が管理したうえでAIやITを使う仕事に役割を振りわけて、負担が多くてストレスがかかる仕事をAIやITの役割にするなどこれまでの仕事の見直す流れが出てくるだろう。

採用はどう変わるのか

 働き方改革や少子化が進むなかで、採用の状況も変わっていかざるを得ない。人手不足のために、労働環境を良くしないと人を採用しにくいこともある。また、人が定着しないと仕事が増えるのでほかの従業員にも負担がかかり、ハードな職場環境のためにさらに離職率が上がるという悪循環になる可能性がある。人材採用は企業にとっての先行投資と考えて、従業員にとっての働き方の魅力を高めることが欠かせない時代になるのではないか。

 若者にとっての常識が今までの世代と違うのはいつの時代も同じだが、若者の能力を生かせるように企業が若者に歩み寄ることも必要になるかもしれない。全員が同じように成長し、組織をわきまえて行動することがこれまで当たり前だったが、これからはバラバラな働き方をする部下と向き合いマネジメントできる管理職を育てることが組織の課題になるだろう。大学で専任講師としてリアルタイムで若者と向き合い続けていると、これからの若者の多様な働き方を見据えたマネジメントを企業は探っていく段階だと実感させられている。

労働環境が変わる時代の中小企業とは

 経営を取り囲む環境が厳しく、働き方改革という課題がある中小企業にとって、自社のビジネスのあり方を見直すことが、労働環境がこれから大きく変わっても乗り越えられる方法ではないか。先代から受け継いだ事業を続けるなかでも次のビジネスのかたちを探り、これから続ける事業と続けない事業を客観的に見て判断することが大切だ。

 たとえば、今ではユニクロは大企業だが、もとは柳井正氏が山口県の紳士服洋品店の小郡商事を継ぎ、ビジネスのあり方を見直した結果から生まれた新しい事業だった。また、自動の機織り機をつくる豊田自動織機が、社会のニーズが変わることを見込んで「自動」の仕組みを生かせるビジネスを考えて社内ベンチャーが生まれ、自動車産業の企業として成長したのがトヨタ自動車だ。

 さらには、ある水産加工業を代々営んできた企業では、今の経営者が先代から事業を受け継いだときに財務内容を見直した結果、水産加工事業が成り立たないことに気付いて大胆に事業改革を行った。出汁(だし)や水産加工品に事業の路線を変えた結果、業績が大きく改善されたという。

 顧客は何を求めているか、どのような付加価値を生み出せるかを見極めて、企業がやるべきことを選ぶことも大切だと感じている。サービスや商品の付加価値はわかりやすいものだけではなく、たとえばコーディネイト力など、わかりにくいけれども世の中に必要なサービスもある。

 たとえば、最近は産直や直売所が流行っており、流通業を通さずに消費者が生産者から商品を買うことも多くなった。一見すると、仲介業の価値が問われるように感じられる。

 だが、卸売市場の仲介業は、仲介業がいるからこそ顧客が求める品質や価格にあった商品を見極める、ベストなモノを選ぶ目利きとしてのコーディネイト力こそに価値がある。企業としての付加価値や立ち位置を見直すことで、今後さらに深めていくべき事業と企業の本質には遠い事業もわかるようになる。最大限のパフォーマンスを上げられるように働き方を見直すためには、いずれにしても表面的な「改革」だけにとどまらず、本質を見つめる視点が欠かせないことは間違いない。

(了)
【石井 ゆかり】

(中)

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