2024年04月16日( 火 )

【九州北部豪雨】あれから2年…時間が癒す傷痕と、深まりゆく溝

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

未曽有の豪雨災害から戻りつつある日常

朝倉市山田地区の国道386号線から三連水車方面へと曲がる地点にある山田交差点

 「平成29年7月九州北部豪雨」(以下、九州北部豪雨)からの復興途上にある福岡県朝倉市。まだ少しずつではあるが、市民の表情にも次第に笑顔が戻りつつある。

 朝倉市山田地区の国道386号線から三連水車方面へと曲がる地点にある山田交差点。農産物直売所や農家レストランを備えた施設「三連水車の里あさくら」のすぐ近くにあるこの交差点付近も、2年前は豪雨によって堆積した大量の土砂と倒木により、一時は通行がほぼできなくなるほどの大きな被害を受けた。その交差点のすぐ横で営業している菓子処「あさくら堂」も、当時は店内にまで土砂や流木が流れ込み、一時営業停止を余儀なくされた。あれから2年が経過し、今では隣接するうどん・そば店「かっぱの巣」とともに、同店もかつての盛況を取り戻しつつある。

 「おかげさまで、今ではすっかり元のように、お客さんにも戻ってきてもらえています。ただ、やはり天気が悪いと、まだ足が遠のいてしまうみたいですけれど…」(あさくら堂女性店員)。

 朝倉市屋永地区で、高級食材スイゼンジノリ(川茸)の養殖・販売を営む老舗の「川茸元祖 遠藤金川堂」。同社では豪雨時に作業場の横の黄金川が氾濫したことで、養殖中のスイゼンジノリ100kgが川に流されるという被害を受けた。幸いにして、同地区ではライフラインの被害が少なかったことで比較的早くに営業を再開することができ、さらに顧客からの応援や支援が多く寄せられたことで、現在はもう災害発生前と変わらぬ様子を取り戻している。

 「皆さまからたくさんの温かい支援や励ましの声をいただき、本当に感謝しています。おかげさまで、今ではすっかり通常営業に戻っています。ただし、もう2年が経つのですが、今でも雨が降ると、つい警戒はしてしまいますね…」(17代目代表・遠藤淳氏)。

 地区によって程度の差はあれ、朝倉市内でもあの“悪夢”のような九州北部豪雨の被災から、たしかに日常を取り戻しつつある様子がうかがえる。

被災者のなかに残るわだかまり

被災者の声
※クリックで拡大

 2年という歳月は、未曽有の豪雨災害による悲惨な傷痕を癒しつつある。しかし、その一方で、深まりつつある“溝”もあるようだ。

 今回の取材では、被災地に暮らす朝倉市民の方々に意見を聞いて回った。特徴的なものをいくつかピックアップしているが、朝倉市の対応についての要望の声が多かったように思われる。

 市民にとって行政とは、災害などの緊急事態が発生した際、一番に頼るべき存在であることは間違いない。にも関わらず、2年前の九州北部豪雨の発生時には、市が本来ならば最優先で取り組まねばならない市民への支援が、後手後手に回ったケースもあったようだ。

 もちろん市側も、急な豪雨災害への状況確認や関係各所への対応に大わらわで、限られた人員のなかで、市民への初動対応が十分にはいかない、止むに止まれぬ事情もあったかもしれない。後にそうした市側の状況を知った市民からは、ある程度は理解の声も挙がってはいるものの、それに甘んじているわけにもいくまい。

 九州北部豪雨の経験を教訓化することで、緊急時用の情報網の構築や、物資の供給ルートの確保など、この先、万が一同じような災害に見舞われた場合に、今度こそ市民にきちんと向き合えるような体制や仕組みづくりが、行政には求められている。

 そのほかに目立った意見としては、被災の度合いにより、復興への取り組み姿勢に温度差が感じられるというものだ。

 朝倉市内は17のコミュニティに分けられるが、そのうち大きな被害が発生したのは半数の8コミュニティ。その8コミュニティでも、各コミュニティによって被害の大小はあるだろうし、さらにいうならコミュニティ内でも、地区によって違うだろう。幸いにして被害が小さかったり無事だったりした市民にとっては、被災者としての当事者意識が薄れてしまうのは仕方がないことともいえるが、その一方で、大きな被害を受けた被災者にとっては、複雑な思いを抱いてしまうものだろう。

 九州北部豪雨により生じた、さまざまな解決すべき課題。その解決に向けては、朝倉市全体が一丸となって足並みをそろえて取り組んでいく――というのが理想ではある。だが、あの日以降も変わらず日常が続いている人にとっては、なかなか本腰を入れにくいというのが厳しい現状だ。

 現在の朝倉市は、さまざまな市民感情を内包しながらも、着実に元の姿を取り戻しつつあるといえる。この先、晴れて“復興完了”を宣言できるようになったとき、市民全員で喜び合える状況にするためにも、市民の声1つひとつに対して、真摯に耳を傾けていく必要がある。

【特別取材班】

▼関連リンク
復興は進んでいるのか、判断難しい線引き~朝倉市の現在(前)
応急復旧から本復旧へ 国土交通省が権限代行で取り組む防災インフラづくりの進捗(前)

関連記事