2024年05月09日( 木 )

日産の西川社長は、カルロス・ゴーン前会長と同じ穴の貉(むじな)だ!

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 日産自動車の西川廣人社長兼最高経営責任者(CEO)が、株価に連動して受け取る報酬を、社内規定に反して不正に受け取っていたと9月5日の新聞各紙が一斉に報じた。西川社長は5日朝、「事務局に一任していた」と、自身の関与を否定。「しかるべき金額は会社に返納する」と語ったが、役員報酬の不正受領で社長辞任は確実だ。

ゴーン側近のグレッグ・ケリー氏が、西川社長の不正を証言

 西川氏をめぐる不正は、6月10日発売の月刊『文藝春秋』(7月号)が報じた。カルロス・ゴーン前会長の側近だった日産前代表取締役のグレッグ・ケリー氏=金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の罪で起訴=が、インタビュー記事『西川廣人さんに日産社長の資格はない』で、西川社長の不正を証言した。

 問題視されているのは、「ストック・アプリシエーション・ライト」(SAR)と呼ばれる株価連動型インセンティブ受領権だ。自社の株価が一定の期間内にあらかじめ決めた価格を上回った場合、その差額分を報酬として金銭で受け取れるしくみ。日産は2003年の株主総会で導入を決めた。

 ケリー氏の証言によれば、西川氏はSARの金額を決める「行使日」が、2013年5月14日とあらかじめ決まっていたのに、それを約1週間ずらして22日にすることで、4,700万円を上積みして、合計1億5,000万円もの報酬を受け取っていた。この間、株価は1割ほど上がった。

 西川氏は9月5日朝、報道陣の取材に対して、かさ上げされた金額を受け取っていたことを認めた。だが、自身のSARの取り扱いを「(ケリー氏の担当部署に)一任していた」とし、権利の行使日をずらすなどの指示は「していない」と主張している。

 2013年度の有価証券報告書によると、西川氏のSARによる収入は1,500万円と記されている。1億5,000万円と1,500万円の差は何なのか。西川氏は不正報酬を認めたわけだから、この差についても、きっちり説明する必要がある。

 ケリー氏は、報酬隠しと大問題となった「ゴーン氏の退任後の報酬の合意文書」に西川氏が署名した状況についても、こう明かしている。

 「ゴーン氏と西川さん、そして私のオフィスは日産本社の同じフロアにありました。角にゴーン氏の広い部屋があり、少し離れたところに私と西川さんの部屋が隣同士で並んでいました。私は隣にある西川さんの部屋に行ってたたき台の書類を見せ、西川さんはそれを注意深く読んだ後、サインをしたわけです」

 ゴーン氏と「ゴーンチルドレン」として抜擢された西川氏は二人三脚。ゴーン不正に加担していた。不正をゴーン体制に押し付けて、逃げ切れるほど甘くはない。ゴーン=ケリー側は、西川氏の急所を握っている。

不正の温床になったSARとは何か

 ゴーン前会長の金融商品取引法違反事件で、問題になったのはSARを4年間で40億円分を未掲載にしていたことだ。

 業績向上による株価上昇で報酬が増える代表例は、株式を買える権利を与える「ストックオプション」がある。多くの上場企業が採り入れている。だが、日産の制度はこれとは違う。株価が上昇すれば、その分を現金で受け取れる。キャッシュであることが特徴である。

 上場企業の役員はインサイダー取引にふれる恐れがあるため、在任中は自社株式を自由に売買できない。役員には株式よりも現金を手に入れる方がいいに決まっている。

 ゴーン被告はSARの4年間40億円分を有価証券報告書に記載していなかった。西川社長も18年3月期には記載していない。ゴーン前会長がアウトなら、西川社長もアウト。しかし、ゴーン前会長が逮捕されたのに、西川社長は逮捕されず、東京地検特捜部と司法取引したのではないかと囁かれた。今回、SARの闇があぶり出された。

 社長・西川氏の許可を得ずに、事務局が勝手に、行使日を変えることができるわけがない。役員報酬の不正について、「会社に返納する」ことで逃げ切りを図ろうしているが、西川氏はいよいよ土俵際に追い込まれた。

旧宅を購入してほしいと日産に迫る

 カルロス・ゴーン=グレッグ・ケリー両被告側は、西川社長を標的に反撃を開始した。ケリー氏の『文藝春秋』の記事は、信じ難い事実を明らかにしている。

 ゴーン氏が逮捕されるや、ゴーン氏が会社のカネを私的に流用する強欲ぶりが、日産からのリークで集中豪雨さながらに溢れ出てきた。

 私的流用の1つと取り沙汰されたのが、世界6カ所にある高級住宅だ。中でも幼少時から高校まで過ごしたレバノンのベイルートと出生地であるブラジルのリオデジャネイロの住宅は日産の子会社に計21億円かけて購入させ、ゴーン氏とその家族に私的に使用していた。

 西川氏も強欲ぶりでは、ゴーン氏に負けていない。ケリー氏は、こう告発した。

 2013年春、西川氏が日産に新たな不動産を購入してほしいとケリー氏に相談したという。西川氏が渋谷の新居を購入し、それまで住んでいた世田谷区の自宅から引っ越した直前の時期にあたる。新居の建築費用を捻り出すために、旧宅を日産に買い取ってくれと迫ったというのだ。新居は、記者たちが門前に待ち構えている、あの家だ。

 ケリー証言によれば、ゴーン氏が私的に流用した海外の住宅購入は、西川氏の承諾を得て不動産の契約を行ったという。西川氏はゴーン氏が私的流用するとわかっていながら、決裁していた。ゴーン氏が甘い汁を吸っているなら、自分だってやる。新居の購入資金を捻出するため、日産に旧宅を買い上げてもらおうと働きかけた。これは、れっきとした「会社の私物化」である。西川社長に、ゴーン氏の「会社の私物化」を糾弾する資格はない。

ゴーン氏が吠える「西川社長のほうが悪質だ」

 日産のカルロス・ゴーン前会長の裁判で、争点や証拠を絞り込む公判前整理手続きが9月5日、東京地裁で開かれた。

 朝日新聞デジタル(9月5日付)は、『ゴーン氏「西川社長のほうが悪質」報酬不正問題を批判』のタイトルの記事を速報で報じた。

 〈前会長の弁護人の弘中惇一郎弁護士によると、日産の西川(さいかわ)広人社長がかさ上げされた報酬を不正に受領した疑いが浮上した問題について、前会長は「自分は金を受け取っていない。西川社長の方が悪質なのに、自分だけ逮捕されたのは極めて不公平、不平等だ」と話したという。〉

 裁判は、“巌窟王”と化したカルロス・ゴーン氏による、西川廣人社長に対する復讐の場となる。

【森村 和男】

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