2024年04月20日( 土 )

ZOZOを身売りした前澤友作氏にバッシングの嵐~本人曰く「借金はたったの600億円」

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 「出る杭は打たれる」ということわざがある。頭角を現すと、とかく人から、妬まれたり、憎まれたりすることのたとえ。衣料通販サイトを運営するZOZOの創業社長・前澤友作氏は、その典型。ソフトバンク傘下のヤフーにZOZOを身売りした理由が「宇宙旅行に行きたい」ので、会社経営を辞めますというもの。いかにも前澤氏らしい人を食ったような言いぐさだが、早速、局地豪雨さながらのバッシングを浴びた。

2,000億円の借金で火の車の報道

 9月21日発売の『週刊文春』(9月26日号)は、「2千億円株担保 借金で火の車だったZOZO前澤友作『人間失格経営』」と報じた。

 昨年の七月から株価は下がり続け、今年二月には約千六百円とピーク時の三分の一まで落ち込んだ。前澤氏は、二月だけで三度の株担保の追加差し入れに追い込まれる。それは、前澤氏の持ち株の八七%まで達した。

 加えて前澤氏はZOZOに自らの株を買い取らせてもいる。一株約三千八百円と高値だった昨年五月、六百万株を二百三十億円で売却しており、現在は約八十億円の含み損に陥っている

 社長を務める会社の株を担保にして危険にさらし、一方では会社に買い取らせて財務を悪化させるとは“経営者失格”と言われても仕方はないだろう

といった具合だ。

2,000億円借金報道を否定

 前澤氏は9月23日、自身のツイッターを更新し、「週刊文春」が報じた内容に反論した。

 前澤氏は借金について、「僕の借金は600億円です。株を担保に入れたローンを組んでいます。どうしても欲しかった現代アートや宇宙渡航のチケットにお金を使いました。一部報道で借金は2,000億円と出ていますが、事実ではありません」と否定した。

 借金を理由に会社を手放したとの見方について「たった600億円の借金の返済のために、年間3,000億円以上を売り上げるZOZOを売るはずないでしょう」と強調した。

 「某週刊誌の見出しにもなっていた『前澤、人間失格』まさにその通りです、あっぱれ」と結んだ。

 人を小馬鹿にした物言いは、「打たれやすい」お人柄であることはよくわかる。それでも、個人的な借金が600億円あるとは驚きだ。

いまだにロッカーなり

 ソフトバンク傘下のヤフーは9月12日、ZOZOを4,000億円で買収すると発表した。共同記者会見で、ゲストとして登壇したソフトバンクグループの孫正義・会長兼社長は、前澤氏について、こう語っている。

 会社を始める前、彼はロックバンドをやっていた。結局、いまだにロッカーなんですね。「前澤君、君はいまだにロッカーなんだよね」って言ったら「そうなんです。まさにその通りだ」と。「かっこいい楽しい人生を過ごしていきたいんだ」ということでありました。そういう意味では、非常によくわかる

 「楽しい人生をもう一度」。同日、電撃身売りについて会見した前澤氏は「宇宙旅行と新事業」への尽きせぬ思いを語った。新しい音楽に挑戦する、ロッカーの心意気だ。

 しかし、物わかりが良い人ばかりではない。上場会社のZOZOを錬金術に使っていると、冷ややかな視線を向ける人は少なくない。

 洋服への思い入れがさほど深いわけではなく、球団買収発言や女優との交際というプライベートの切り売りで株価を吊り上げる一方で、株を担保にカネを借り、現代アートのコレクションや民間人初の月旅行計画に耽溺する。やっていることは、仕手筋そのものだ。

前澤流錬金術に綻びが生じた。

 今年2月12日と22日、前澤友作氏は関東財務局に大量保有報告書を提出した。それによると、前澤氏は保有するZOZO株式の87%を国内外の銀行に担保に差し出していた。担保提供先は三井住友銀行、みずほ銀行、野村信託銀行などの7行。

 2018年5月にはZOZOの自社株買いに応じ、600万株の保有株を会社に売っている。これだけでも前澤氏は230億円を超える資金を得たはずなのに、この230億円はどこへ行ったのだろうか。

 証券専門紙、日本証券新聞(9月28日付)は、金融ジャーナリスト、伊藤歩氏の「あっぱれの一言、ZOZOの前澤氏」と題するコラムを載せた。2007年12月の上場時から現在までの間に前澤氏が売却したZOZO株がどのくらいあって、それで前澤氏がどのくらいの金額を手にしたかを集計している。

 それによると、前澤氏は「基本は売るだけで買ってはいない」。18年5月に自社株に応じた分を含めて「880億円」を手にしたとしている。

 880億円のキャッシュを手にしているはずなのに、まだ足りない事情があったから、持ち株の87%を銀行に担保として差し出し、また借りたということだ。

孫正義氏は「時の氏神」だった

 ZOZOは「プライベートの話であり、何に使っているのか関知しない」としているが、これは無責任というものだ。ZOZOが自社株買いを行ったのは、創業者であるオーナー社長の鶴の一声だったのではないのか。

 自社株買いで財務内容が悪化した。ZOZOは18年3月期まで無借金経営だったのだが、19年3月期末で短期借入金が220億円になった。この220億円の借入金は、前澤氏の持ち株を会社が230億円を買い取った際にできた銀行からの短期借入金である。

 株式を担保にした融資は、株安が進むと追加担保の差し入れや早期の返済を迫られ、あるいは担保となっている株式を処分される可能性がある。オーナー企業の経営者が自分の会社の株を銀行に担保として差し出すということは、資金繰りに窮しているものと判断される。

 前澤氏は9月12日の会見で、ヤフーへの保有株売却と借金は関係ないと述べている。否定すればするほど、ヤフーへのZOZO株売却は、借金の返済のためだったことがわかる。

 ヤフーへのZOZO株売却で、最大2,400億円が手に入り、所得税2割を差し引き、600億円の借金をすべて返したとしても1,300億円のキャッシュが残る。逆転満塁ホームランを打ったようなものだ。前澤友作氏にとって、孫正義は「時の氏神」だったといえよう。

【森村 和男】

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