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2019年10月15日 07:00

再審開始の湖東記念病院事件 県警の捜査資料から新たな疑惑(後)

滋賀県警察本部
滋賀県警察本部 

虚構の自白の原作者は暴力刑事

 では、「アラームが鳴るまでの時間を数えた」という虚構の自白を創作した取調官は誰なのか。裁判記録を検証したところ、滋賀県警刑事部捜査第一課の山本誠刑事(巡査部長)が7月20日に1通、同22日に1通、同24日に2通、大津地検の早川幸延検事が同25日に1通、「アラームが鳴るまでの時間を数えた」という趣旨の西山さんの供述を録取した自白調書を作成していた。時系列から見て、この虚構の自白の原作者は山本刑事であることが明白だ。早川検事は、山本刑事が作成した自白調書の内容を踏襲し、西山さんの虚構の自白を調書にまとめたのだろう。

山本刑事が作成した2004年7月20日付け自白調書の問題部分
山本刑事が作成した2004年7月20日付け自白調書の問題部分
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山本刑事が作成した2004年7月22日付け自白調書。供述が20日付けのものより詳細になっている
山本刑事が作成した2004年7月22日付け自白調書。供述が20日付けのものより詳細になっている
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 実はこの山本刑事に関しては、これに限らず、すでに複数の問題が明るみに出ている。まず、この事件では、西山さんが任意の取り調べ中に男性刑事に好意を抱き、そのせいで容疑を自白したことが報道されているが、実はその男性刑事は山本刑事のことだ。裁判での西山さんの説明によると、山本刑事に好意を抱いて自白した後、否認に転じようとしたが、山本刑事は「逃げるな」ときつい口調で迫ってきたり、突き飛ばしてきたりした。

 一方で山本刑事は「ワシに全部任せておいたら大丈夫や」「殺人でも死刑から無罪まである。執行猶予がつくこともあるし、保釈がきくこともある」などと“優しい言葉”もかけてきたという。発達障害と軽度の知的障害を有する西山さんが、このような脅迫と偽計を駆使した取り調べを受けたら、無実の罪を自白したり、自白をなかなか撤回できなかったりしても仕方ない。

 対する山本刑事は05年5月31日に西山さんの第一審に証人出廷した際、「自分は過去に一度も裁判で自白の任意性、信用性が争われたことがない」と断言したうえ、西山さんが訴えるような脅迫や偽計を取り調べで用いたことを否定している。しかし、実は裁判では、山本刑事が初公判の3日前にも不審な行動をしていたことが明らかになっている。西山さんが勾留されていた滋賀刑務所まで面会に訪ね、西山さんに「検事さんへ」という書き出しで始まる次のような“自供書”を書かせていたのだ。

 〈もしも罪状認否で否認しても、それは本当の私の気持ちではありません。こういうことのないよう強い気持ちをもちますので、よろしくお願いします〉。

 こんなものを書かされたため、西山さんは動揺し、初公判で罪状認否ができない状態にまで追い込まれた。こんな工作めいたことまでした山本刑事が、西山さんの取り調べで不当なことを一切していないとは考え難い。さらに山本刑事は西山さんの第一審に証人出廷した3日後に、とんでもない不祥事を起こしていたことも判明している。その不祥事の内容は、筆者が滋賀県警への情報公開請求で入手した山本刑事を対象とする懲戒処分者名簿(作成は05年7月14日)の「懲戒の理由」欄に、こう記されている。

 〈被処分者は、平成17年6月3日午後10時50分頃から同日午後11時05分頃まで間、滋賀県■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■取調室内において、窃盗事件の容疑者を取調べ中、同人に足蹴りするなどの暴行をした。〉

(■は、原本では黒塗り。ほかは原文ママ)。

山本刑事が市民を誤認逮捕し、暴行した際に作成された懲戒処分者名簿
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 この懲戒処分者名簿には書かれていない情報を補足すると、山本刑事が暴行した「容疑者」は、パチンコ店で起きた窃盗事件で「誤認逮捕」された男性だった。つまり、山本刑事は無実の市民を誤認逮捕したうえ、暴行していたのだ。この不祥事の内容からしても、山本刑事がこの時以外は常に適切な取り調べをしていたなどとはおよそ考え難い。

 ちなみに、山本刑事はこの不祥事により特別公務員暴行陵虐容疑で書類送検されたが、不起訴処分となり、懲戒処分も減給100分の10(1カ月)で済んでいる。さらに山本刑事の近況を調べたところ、現在、階級は警部で、長浜署の刑事課長を務めるまでに出世していたことがわかった。県警の内部で、山本刑事の不祥事が軽く扱われているのは明白だ。

 西山さんはこういう。

 「山本刑事のことは、今はなんとも思っていなくて、『もう関わりたくない』という思いだけです。でも、私が、山本刑事のいうことを信じて嘘の自白をしたせいで、自分だけでなく、お父さんやお母さんまで苦しめました。それが本当に申し訳ないです」。

 西山さんが冤罪であることが動かし難くなった今、山本刑事はこの西山さんの言葉をどう受け止めるのか。

 筆者は本稿の執筆に際し、「アラームが鳴るまでの時間を数えた」という西山さんの自白は山本刑事が創作した虚構なのか否かについて、山本刑事本人にも確認のためにウェブ速達で取材を申し入れた。しかし、回答をもらうために長浜署に電話すると、現在は同署の刑事課長である山本刑事は電話に出ず、代わりに田中充警務課長が電話に出て、こう述べた。

 「山本のほうの個別の取材は受けておりませんので」。

 滋賀県警は今後も山本刑事を守り続けるつもりのようだ。

(了)
【片岡 健】

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