2024年12月10日( 火 )

疾病リスク低減表示拡大と公正競争規約はトクホの救世主となるのか?(2)

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疾病リスク低減型トクホの調査事業の行方は?

 18年6月15日に閣議決定された「統合イノベーション戦略」および「未来投資戦略2018」において、トクホ等の保健の用途に係る表示の拡大についてその可能性を検討することとされていた。そして19年4月5日、(公財)日本健康・栄養食品協会(日健栄協)は「特定保健用食品の有効活用と制度の発展について」と題した要望書を消費者庁に提出した。

 この要望書では、トクホと機能性表示食品のそれぞれの意義と目的を明確にして、それらの違いを消費者や事業者、医療専門家などが理解して正しく活用できる環境を醸成することが喫緊の課題であり、それらの棲み分けと、トクホ制度を拡充させることで、国民の健康の維持増進の向上と医療費の削減にもつながるとしている。その棲み分けの1つの重要ポイントとして、疾病リスク低減型トクホの表示の拡充、およびその仕組みの拡大をあげた。

 トクホにおける疾病リスク低減表示は、保健機能を示す食品中の関与成分の疾病リスク低減効果が医学・栄養学的に確立されている場合に限って、疾病リスク低減効果を表示することが許可されたものだ。これまでに認められているのは、カルシウムと葉酸の2つのみで、カルシウムは骨粗鬆症、葉酸は胎児の二分脊椎などの神経管閉塞障がいのリスクを軽減できる可能性を表示できる。前出の「トクホ等の保健の用途に係る表示の拡大についてその可能性を検討」に関して、19年7月に消費者庁が「疾病リスク低減型特定保健用食品の調査事業」を公表し入札を開始、その後8月8日に日健栄協が落札、20年3月末までに報告書があげられることになっている。

 しかし、要望書の段階ではもちろん落札できるかどうかは未定の段階ではあったが、日健栄協は「現行の規格基準の拡充のみに止まらず、個別審査型の申請を促すための具体的な申請ガイダンス作成のための海外制度の調査」も要求しており、実際に海外の疾病リスク低減表示の調査が調査事業の項目にあげられた。因果関係はわからないものの、結果的にはこの要望が反映された調査事業となった。

 確かに、トクホの関連通知や行政文書では、疾病リスク低減型トクホに関する申請要件が具体的に示されておらず、カルシウムと骨粗鬆症、葉酸と神経管閉塞障がいのように規格基準となる過程についても明確にはなっていない。一方で、世界を見渡すと疾病リスク低減表示はCodex委員会でも健康強調表示の範囲であることが規定されており、米国FDAや欧州EFSAはもちろん、オーストラリア、カナダ、マレーシア、韓国などでは、健康維持増進に関わる疾病リスク低減の申請ガイダンスが示されており、数多くの疾病リスク低減表示が認められている。

 さらに、日健栄協は要望書の段階で、食品成分の欠乏症と疾病リスクの直接的関連性による規格基準型の拡充に加えて、食品成分とバイオマーカーと疾病の関連性が専門学会などで認められている場合には、食品成分とバイオマーカー、そのバイオマーカーと疾病リスク低減のマーカーの2段階関連性による疾病リスク低減表示を認める仕組みの導入の検討も要請している。

 具体的に、米国FDAの「Guidance for Industry」の疾病リスクの代用マーカーとして、「心疾患(循環器疾患)に対するLDLコレステロール濃度、血清総コレステロール濃度、および血圧」や「骨粗しょう症に対する骨密度」「大腸がんに対する腺腫性大腸ポリープ」「2型糖尿病に対する高血糖(血糖上昇)およびインスリン抵抗性」をあげている。

 また、日本動脈硬化学会作成の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」にはバイオマーカーであるLDL-コレステロールと動脈硬化性疾患リスクとの関連性が記載されており、日本糖尿病学会作成の「糖尿病治療ガイドライン」においては食物繊維が食後血糖コントロールや血中脂質低下に有効であることから、食物繊維を食事指導に取り入れることが記載されている。これらバイオマーカーと疾病リスク低減の関連性が認められる場合は、新たに疫学調査などのデータを収集しなくとも、欧米で表示根拠として認められている疾病リスク低減表示が可能となる仕組みの導入も示唆している。

 今回の調査事業では、これらの事例調査によって、2段階関連性による疾病リスク低減表示の基準作成の推奨や個別審査型の拡大の可能性をうかがう調査となりそうだ。

(つづく)
【取材・文・構成:継田 治生】

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