2024年04月24日( 水 )

【凡学一生のやさしい法律学】関電報告書の読み方~関電疑獄を「町の法律好々爺」凡学一生がわかりやすく解説(16)

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関電内部調査報告書解説【各論】

 法律家であれば誰でも事実認定における直接主義の原則を知っている。問題はなぜ、3名の弁護士は直接、脱税犯罪者や不正行為者に尋問しなかったのであろうか。実はここには最大の隠蔽工作、違法・犯罪行為の隠蔽がある。
3名の弁護士らは「私人が直接私人に対して犯罪調査を行うことは違法である」ことを知っていたから、調査を何も知らない3名の部門責任者に委ねたのである。(これは情を知らない人間を道具とした間接正犯である。)

 私人が直接私人に対して犯罪調査を行うことはなぜ違法行為となるか。それは極めて簡単に説明できる。法律により犯罪捜査権を与えられた司法官憲でさえ、被疑者には黙秘権があることを伝えてしか尋問ができない。これは憲法が保障する基本的人権である。本件において、実際に調査した部門責任者がすでに犯罪者と公権的に認定された犯罪者たる虞犯取締役らに黙秘権、自己負罪拒否特権があることを告知した事実は一切窺われない。ただ、会社命令として調査に協力するよう伝えただけであろう。

 会社における上司・部下の関係は特別権力関係とか部分社会の法理として、会社契約が憲法の規定よりも優先する部分があるが、それは私的自治の範囲内でのことであり、会社が職員に対して犯罪調査をすることは許されない。無論、会社は犯罪訴追機関ではないから、調査結果を刑事訴追に利用することはないが、刑事訴追のために決定的となる証拠の収集そのものが私人には禁止されている。これは法律を知らない国民には意外なことに思えるが、個人の人権の保護と保障については、この際しっかりと理解していただきたい。

 結局、関電が、賄賂犯罪者、不正行為社員を調査することは違法である。では会社の取るべき態度はどうなのか。それは賄賂犯罪者が自ら犯罪を認めた場合には問題がないから、その場合に限って、犯罪事実、不正事実の調査ができる。その場合、会社はそれらの犯罪職員を刑事告発する義務がある。犯罪職員が犯罪事実を否認している場合、関電は刑事告訴告発して捜査を司法官憲に委ねるしかない。これが正しい法的対応である。同書が、そして3名の弁護士らが故意に違法犯罪行為を行ったことは明白である。

 なお、会社による不正行為とは最終的に取締役が決済する「取引行為」であり、積算担当職員の不正行為ではないし、その取引額から不正を認定することはできない。取引が、競争入札ではなく特別発注、特命発注であったこと自体が不正行為であり、競争入札でないことを知って、決済した取締役、取締役会が違法行為者である。同書はそもそも無意味な「発注額が公正か否か」という客観的に論定できない独善の論点を設定し、しかも証拠・根拠なく、発注額は公正であったから、不正行為はない、と結論した。いかにデタラメな立論と結果であるかは明白である。

(つづく)

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