2024年04月25日( 木 )

人生100歳時代というけれど…(1)

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 「100歳」という言葉がいたるところに並び、100歳まで生きることが奨励されるこの国。しかし、誰もが「100歳まで長生きしたい」と感じているのだろうか。そして、介護保険の地域包括ケアシステムをつくった行政の意図とは。生きることが至上の価値とされる一方で、安楽死など自分で自分の寿命を決めることはできない。命の価値を見つめ、100歳まで生きる現実に迫った。

ノンフィクション作家 大山 眞人氏

トコろん元気百歳体操

オモリを負荷した筋力トレーニング「トコろん元気百歳体操」と

 私が住む埼玉県所沢市では、3年前から「トコろん元気百歳体操」というオモリを負荷した筋力トレーニングを実施している。対象は高齢者だ。私も第1回の「トコフィット・トレーナー講習会」に参加し、トレーナーの資格を取得した。

 週一回、私が運営する「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)でも始めて3年になる。ただ、「いち、にい、さん…」と声を出して数えながら、ひたすら腕や足を上下に動かすだけの筋トレだ。実に単調でたいくつな体操であることを否定しない。これまで、30人近い高齢者が参加したものの、現在当初から続いているのは私を含めてわずか5人というのが体操の中身を証明している。

 最初に始めたのは高知市である。2002年、「高齢者ができる限り要介護状態に陥ることなく、健康で生きいきとした生活を送れるように支援する」を目的として開発され、「いきいき百歳体操」と名づけた。「ものをもつ・立つ・歩く+ケガや痛みの予防改善」を図るには「筋トレアップ」しかない。「高齢者が筋トレ?」という疑問をもつかもしれないが、年齢には無関係に48日で筋肉が入れ替わるという。「増やす」「維持する」という意味でも、筋トレの年齢は無関係のようだ。高知市の場合、90過ぎの歩行困難な高齢女性が「いきいき百歳体操」にチャレンジし、数カ月後には小走りできるまでに改善したという。

誰が“百歳、百歳”といい出したのだろう

 白澤卓二氏(線虫研究家、抗加齢医学研究者)の『100歳まで生きる条件―アンチエージングを科学する』の出版が2007年7月だからその頃だろうか。白澤氏はその後、「100歳」をタイトルにした著作物を多数出版されている。確かに健康寿命は、男性72.14歳、女性74.79歳(2016年度統計)と延びてきている。

 厚労省が、100歳人口の統計をとり出した1963年の100歳以上の高齢者は、男女合わせてたったの153人だった。それが2019年には7万人を超した。その88%は女性である。100歳超えが急増した背景には、食生活の変化や、医療技術と生命科学の進歩がある。問題は、高齢者の誰もが「100歳まで長生きしたい」と思っているのだろうか、という点だ。

 アクサ生命保険(株)が次のようなアンケート結果(2018年6月、インターネットで20代から60代までの男女1,000人)を報告している。そのなかで、「100歳まで生きたい人」は約2割。残りの約8割の人が「そうは思わない」と回答。アンケートに答えた人の8割が「長生きはリスクだ」と考えているという。その理由は(複数回答)、(1)身体能力の低下71・3%、(2)収入の減少70・9%、(3)年金破綻62・4%、(4)病気52・4%、(5)判断能力の低下50・4%などをあげている。

 アクサ生命はその理由を、「長生きのリスクを自覚している人が多く、それが『100歳まで生きたいとは思わない』という結果に結びつく。経済的な不安、健康的な不安に加え、それに対して準備できていない、という気持ちがむやみに長生きを望まない理由」と結論づけている。

 生命保険会社だから、「保険で不安解消を」という本音があることは理解できる。しかし20代から60代という幅広い年齢層にとっては、「100歳まで生きる」という実感を得にくいのではないか。とくに20代には(身内や周囲に高齢者がいたとしても)他人ごとのような気がしてもいたしかたのないところ。ほんとうにさまざまな“不安”だけが「100歳まで長生きすることを望まない」理由とは考えにくい。「100歳を超して生きている自分自身」を予想できない人が少なくないのではないか。 

(つづく)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)など。

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