2024年04月25日( 木 )

【凡学一生のやさしい法律学】さくら疑獄事件(5)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

総理大臣の権限

 

 「さくらを見る会」は総理大臣の主催する国家行事とされる。それ故、膨大な国家の資源と税金が投入費消される。この主催者としての権限はどのようなものなのか。つまり、完全な自由裁量が許されているものか。それは会の開催目的によって客観的に決定される。

 

 会の開催目的は明確である。それは国家に功労のあった人びとを慰労し、ひと時の花見の宴での飲食で歓迎し、国として感謝を示すことである。目的設定は簡単であるが、「国家に功労のあった人々」を実際に選定することは困難である。何を基準に「国家功労」を判定するか。この判定に総理大臣の自由裁量権があるとすれば、本件疑惑はそもそも存在しない。

 そこで、経験的に国家功労者の認定選定を各省庁と一定の資格者にまず「推薦」させ(報道によれば、それは「枠」と称されている)、その推薦者について、総理大臣の直属部署の内閣府(の公務員)で最終的に選定認定する仕組みを構築した。つまり総理大臣の選定認定権は実際には内閣府の担当公務員の業務とされた。ここで重要なことは内閣府の担当公務員はあくまで被推薦者のなかからしか選定認定できないことである。

 以上の選定手続きでは総理大臣の裁量の余地はない。結局、会が総理大臣の主催であるという意味には総理大臣個人の選定についての自由裁量権は存在しない。

具体的に発生した犯罪行為・違法行為

 では具体的に総理大臣の推薦枠があり、実際の被推薦者が国家功労者として不適切・不適格な人物が選定された場合にはいかなる法的問題が生じるのか。

 本件、「さくら疑獄」は実はこの問題の入り口で発生した別の犯罪事件が重大である。それが、行政文書の違法処分、破棄であり、情報隠蔽である。もちろん、不適切な人物選定を隠蔽する目的で行政文書の違法破棄が行われたのであるから、不適切な人物選定が犯罪行為であれば、両者は刑事法学でいう牽連犯の関係となる。もっとも、菅義偉官房長官は行政文書の破棄は法的に正当に行われたと弁解し続けてはいる。

不適切な人物選定はいかなる責任を生じるか

 実際に招待者を選定決定するのは内閣府の担当公務員であるが、それが、無条件に推薦者全員をそのまま招待者に選定しても担当公務員の責任は発生する。不適格者の排除選定が当該公務員の業務だからである。年々参加者数が増加した背景には担当公務員による無条件選定招待の実態があったと推定されるが、無条件招待者全員が不適格者ではないから、年々の参加者増加はそれ自体には違法性はない。参加者の増減については総理大臣の裁量権の範囲内と考えられるからである。

 招待者選定権も総理大臣の決定権に由来するから、担当公務員の不適切選定の責任は最終的に総理大臣にある。この責任が犯罪行為による刑事責任とならないことは明らかであるが、その不適切選定の結果、国費の無駄な出費を招いたのであるから、その賠償責任は発生する。過失・懈怠による違法不当な出費として総理大臣が弁償する義務がある。しかし、

 現行法上、国が総理大臣に対して損害賠償を請求する手続も論理もない。それほど誰もが予想しない・できない出来事が安倍政権下で起こっているということである。

 なお、不適切な被招待者が安倍晋三の選挙区の住民であった場合、公職選挙法上の買収供賄の罪に該当するか否かの問題はかなり微妙な判断であり、検察も検挙立件を躊躇すると思われる。さくらを見る会での飲食の提供は必ずしも不適切被招待者に向けられたとはいえないし、事実、飲食にあずからなかった者も多数いた可能性が否定できない。飲食が完全に1人ひとりに用意されたものでない以上、供賄とすることには無理がある。

 結局、不適切な招待者の選定は出世と保身の状況におかれた公務員が総理大臣の意向・利益を忖度して不正な業務行為を行ったというところまでしか認定できない以上、総理大臣の犯罪ということはできない。

(つづく)

(4)
(6)

関連記事