2024年04月19日( 金 )

「伊都菜彩」に見るご当地農業の可能性

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売上高40億円超の直売所

伊都菜彩
伊都菜彩

 “食の安心・安全”に対する消費者の意識は、年々高まり続けている。市場でもそれに呼応するかのように、無農薬や有機栽培(オーガニック)を謳った農畜産物を取りそろえるところが増加。JA糸島が運営する糸島産直市場「伊都菜彩」は、こうした時代の潮流をうまく捉え、年間利用者は135万人(レジ通過人数)、売上高は40億円を超える。

 2007年4月のオープンからこれまでの間に、地元住民はもちろん、観光客の買い物需要も取り込み、JAの直売所としては全国1位の売上を誇るまでに成長した。驚かされるのは、大々的な広告宣伝などではなく、純粋な口コミによって消費者からの信頼を勝ち得てきたという点だ。

JA糸島営農部部長 小金丸 肇 氏
JA糸島営農部部長 小金丸 肇 氏

 「広告宣伝に予算を費やしたのは、実はオープンのときだけなんです。当時、直売所という業態はまだまだニッチ産業でしたので、新鮮さはもちろん、品ぞろえの豊富さを、まずは多くの人に知ってもらう必要がありました」(JA糸島営農部部長・小金丸肇氏)。

 豊かな自然と、生産者の努力によって育まれた多種多様な糸島の幸。それらが並ぶ伊都菜彩は単なる直売所の枠を超え、今では糸島を代表する観光スポットの役割も担うようになった。16年には、売り場面積の拡張を主としたリニューアル工事を実施。試食コーナーも設けられるなど、生産者と消費者の交流拠点として、より充実した空間へと生まれ変わった。無論、ここに至るまでの道のりは、決して平坦なものではなかった。

 「オープンの半年前から、伊都惣菜で生産物の販売を行ってくれる会員を募りました。目標は1,000名でしたが、実際に募集に応じてもらえたのは650名でした。正直不安を覚えることもありましたが、集客が好調に推移したこともあり、以降は生産者の方から『伊都惣菜で販売したい』とお声がけいただけるようになり、2年目には当初目標としていた1,000名を突破。現在会員数は1,500名に上ります。商品を安定的に取りそろえていくためにも、この水準を何とか維持していかなければなりません」(小金丸部長)。

 前例のない「糸島初の大型直売所の誕生」ということで、まずは様子見という生産者が多かったのかもしれない。しかし、蓋を開けてみれば福岡市内からのアクセスの良さや商品そのものの良さも手伝い、伊都惣菜は連日大盛況。JA糸島の挑戦は、見事に成功した。

次世代につなぐ糸島産

糸島野菜のピクルス「ITOPICK」
糸島野菜のピクルス「ITOPICK」

 JA糸島では、伊都菜彩を通じて生産者の販路拡大も成し遂げている。

 「伊都菜彩から福岡市内のレストランへの販売網も構築しています。糸島の強みは、生産物のバランスが取れているところです。いちご(博多あまおう)やブロッコリー、キュウリなど、それぞれが数億円を売り上げます。ほかの直売所に比べれば、まだ生産余力もあるほか、農閑期といわれる冬でも雪が降り積もるようなことはほとんどないので、秋から冬にかけてつくれないものはないといえるでしょう。こうした安定供給が可能な状況にあることから、販路は着実に広がっています」(小金丸部長)。

 糸島の土壌が育む農畜産物の良さを伝える場所と機会ができたことで、福岡はもちろんのこと、関東エリア―とくに東京市場でも、糸島産は高く評価されるようになった。あとは、ここまで築き上げてきたブランドを、次世代に継承していくことが求められる。

 「天候によって出荷量は変わります。自然相手のことですので、消費者の皆さまにもご理解いただきながら、引き続き安定供給に努めていきます。そのためにも、生産者の皆さまの支援をしっかりと行っていきます。また、回数は少ないですが、糸島農業高校の学生の皆さまと協力してイベントも開催しています。こうした取り組みを通じて、若い世代にも農業の魅力を伝えていければと考えています」(小金丸部長)。

 相応規模の費用を投じて新設された伊都菜彩を通じた、販売形態の多様化と販路拡大、そして生産物のブランディングにまでおよぶJA糸島の取り組み。どの地域でもうまくいくわけではないが、ご当地農業発展の成功例だといえよう。

https://www.data-max.co.jp/files/article/20191224-itosaisai-03.jpg
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【代 源太朗】

<INFORMATION>
JA糸島産直市場「伊都菜彩」
所在地:福岡県糸島市波多江567
営業時間:午前9時~午後6時00分

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