2024年04月17日( 水 )

知っておきたい「任意後見制度」

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(株)アンツインシュアランス 代表取締役社長 玉井 省吾 氏
(株)アンツインシュアランス 代表取締役社長
玉井 省吾 氏

 相続税の基礎控除額が2015年1月1日以降に改正され、相続の相談を受ける機会が多くなりました。基礎控除額の改正の内容は上の通りです。比較すれば、改正前の40%も減少していることがわかります。

 今回は相続対策の一環として、有効な方法の1つである「任意後見制度」を紹介します。任意後見制度とは、委任者(本人)が受任者に対し、将来認知症などで自分の判断能力が低下したときに備えて、自分の後見人として指定しておくことで、実際に判断能力が低下したときに、財産管理や必要な契約締結などを自分に代わって引き受けてもらえる制度です。とくに被相続人が高齢のケースが増えています。

 また、介護状態や認知症などにより、すでに判断能力が不十分な場合には、法定後見しか利用できなくなりますので、自分に代わって財産管理や病院や介護施設などとの必要な契約締結などを任せたい信頼できる人がいるのであれば、自分が元気なうちに任意後見制度を活用することも検討しましょう。

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 任意後見制度と法定後見制度を合わせて「成年後見制度」といいますが、それぞれ大きく異なる点は2つです。

 1つ目は「後見制度の開始の時期」です。法定後見は、実際に本人の判断能力が低下したことによって財産管理や契約締結などに不安や不都合が出てきた場合に、本人や親族が裁判所に申し立てて手続きをします。

 一方で任意後見は、実際の判断能力が低下する前に、後見人の選定や任せる内容などをあらかじめ指定することが可能です。

 また、財産管理などを任せる受任者の選定も、法定後見の場合は裁判所が選定するのに対し、任意後見の場合には、成人であれば自分の意思で原則として誰にでも任せることが可能です。依頼する内容についても、任意後見の場合には「何を」「どのように」「どの権限を」「誰に与えるか」を、自由に指定できます。一方の法定後見の場合は、家庭裁判所が定める指針に沿って法定後見人の判断で進めます。

 2つ目は「取消権の有無」です。法定後見はすでに本人の判断能力に低下が見られることから、一定の代理権や同意権、取消権が与えられますが、任意後見の場合には取消権がありません。従って、後見人が同席せずにしてしまった本人に不利な契約などは、取り消すことができなくなる場合があります。また、任意後見は契約のときに記載してあることの代理権や同意権などしかありませんので、内容を吟味する必要があるでしょう。

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 先日、ある70代の経営者さまから、95歳のお母さまの相続についてのご相談を受けました。所有している資産は、預貯金等の金融資産と不動産が2件です。経営者さまが心配されているのは、自分が亡くなった場合に、妻と、兄嫁を含む親族間の争続になるのではないか、ということでした。そこで、以下のアドバイスをさせていただきました。

 (1)奥さまはお母さまの介護をしていることから、19年7月1日に施行された「特別の寄与」分を考慮して保険を活用する。

 (2)お母さまから経営者さまに、贈与税非課税枠(110万円)を利用した暦年贈与をする。そして贈与を受けた原資を保険料とした、以下の生命保険に加入する。

種類:終身保険
払込期間:10年払い
契約者:経営者さま
被保険者:経営者さま
受取人:奥さま
保険金額:2,000万円
保険金額は死亡保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)に合わせる。

 (3)法定相続分での遺言を作成する。

 今後はお母さまの容態を見ながら、任意後見制度にするか、法定後見制度を利用するか、検討しながら進めていく方針です。

<プロフィール>
玉井 省吾(たまい・しょうご)

1965年生まれ。長崎出身。88年、福岡シティ銀行入行。県内外の支店に勤務し、中小企業の法人営業を担当。事業者に対し、事業融資、経営アドバイスを行う。99年、外資系保険会社に入社し、ライフプランナーとして勤務。その後、保険を活用した経営コンサル業を開始。2018年1月より現職。(株)アンツインシュアランス 代表取締役社長。

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