渋滞政令市ワースト 熊本市に都市高速は必要か?
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2020年02月04日 12:00

渋滞政令市ワースト 熊本市に都市高速は必要か?

 国土交通省、熊本県、熊本市などは2018年6月、「熊本都市道路ネットワーク検討会」を設置した。全国の政令市ワースト(三大都市圏除く)といわれる熊本市内の交通渋滞の解消」が目的だ。「自動車と公共交通のベストミックス」(大西一史・熊本市長)に向け、高架道路の整備や公共交通の充実などを含め、ハード•ソフト両面の方策について議論を重ね、19年度中に具体案をとりまとめる方針。その具体案のなかで注目が集まるのは、地元経済界などが要望する「都市高速道路」の行方だ。熊本市内の道路交通には、どのような課題があるのか。そのために、都市高速は必要なのか――。

政令市ワースト、熊本市の道路渋滞

熊本市内の様子
熊本市内の様子

 熊本市内の道路渋滞は、今に始まった話ではない。2012年1月に(財)地域流通経済研究所がまとめた実態調査でも、「熊本市中心部の朝夕の交通渋滞は慢性化している」と指摘されていた。そんななか、熊本地震が発生。全国から救援物資が送られたが、主要道路で通行止めや道路渋滞により輸送に大幅な遅れが生じたほか、被災者に物資が届かないケースもあった。道路事情の劣悪さが、人命に関わる事態を引き起こしたのだ。震災から4年が経過しても、熊本市は同じ課題をいまだに抱え続けているわけだ。「慢性化」というより、「常態化」という言葉がふさわしい。

 熊本市内の道路渋滞を示すデータがある。市内を通行する車の平均速度は約16km/hと政令市ワースト(三大都市圏除く)。主要渋滞箇所数も180カ所に上り、同じくワーストだ。市中心部の渋滞緩和に向け熊本西環状道路の整備が行われ、17年には花園~下硯川町の区間(延長4km)が部分開通。一定の整備効果はあったようだが、市中心部の道路混雑は相変わらずだ。市内の交通渋滞は、市外への移動にも悪影響をおよぼしている。九州自動車道や阿蘇くまもと空港へのアクセスだ。

 たとえば、JR熊本駅から熊本ICや空港に向かう場合、市内道路の混み具合によって、所要時間に最大15~20分程度のバラつきが出る。市中心部から空港の所要時間は53分と、九州の主要空港ではワーストだ。なお、次点は大分空港の51分で、最短は宮崎空港の10分(福岡空港は14分)。熊本市民からも「時間が読めない」と改善を求める声が挙がっている。

 渋滞の原因の1つとして、熊本市中心部の主要道路にはクランクや直角カーブが多いことが挙げられる。中心部以外も直線道路区間が少なく、あっても不連続な箇所が多いため、交差点の右左折で渋滞が発生しやすい状況となっている。“攻め込まれない”ためのかつての城下町の名残が今、円滑な交通の妨げになっているわけだ。

熊本西環状道路
熊本市南区砂原町~北区硯川町を結ぶ延長12.3kmの自動車専用道路。全4車線(現在は暫定2車線)で、制限速度は80km/h。国道3号、国道57号と結ぶ1環状と11放射道路を形成する。17年3月に西区花園IC~下硯川IC(延長約4km)が開通。25年度に完成予定。だが、3.7kmの調査区間が残されるなど、今のところ、完全な環状線計画にはなっていない。

すでに限界近い市電の輸送能力

 「とりあえず車で移動する」という行動パターンは、熊本市に限らず、全国の地方都市でよく見られる光景だ。熊本都市圏には、JR、市電、熊本電鉄、バスといった公共交通がある。公共交通利用者数は1975年には12万人を超えていたが、主に路線バス利用者の減少により、ここ数年は5万人程度にまで減少している。75年には10万人を超えていたバス利用者も、不採算路線の廃止などにより、ここ数年は3万人を割っている。市内には、すでに熊本市営の路面電車(市電)が走っており、中心部の道路渋滞を緩和するには、自動車通勤者がもっと市電を利用するように仕向けるのが近道だ。

 実際にここ数年、市電の利用客は増加している。ただし、市電の輸送能力は1両当たりせいぜい70名程度。すでに朝夕のラッシュ時には乗り切らないケースも発生しており、新たな車両の導入などが課題になる。

 阿蘇くまもと空港の利用者は、年間約346万人(18年度)いるが、市内から空港にアクセスする公共交通は、今のところバスしかない。そこで、熊本県やJR九州などは、JR三里木駅と空港を分岐ルートで結ぶ新たな空港アクセス鉄道を整備する方針を打ち出した。軌道アクセスにより、空港までの定時性が確保されるほか、大量輸送(1日約6,900人)も可能になる。開通すれば、熊本駅と空港の所要時間は40分程度に短縮されるが、時短効果は10分程度にとどまる。

必然性乏しい都市高速の整備

 国内の都市高速は、三大都市圏などの主要都市に整備されている。いずれの都市も100万人以上の人口を抱える(北九州市は開通当時)。かたや、熊本市の人口は約74万人。県全体の人口も約174万人程度にとどまり、その人口は減少傾向にある。都市高速を整備した場合、その延長や事業スキームなどにもよるが、はたして「ペイできるのか」という疑問が残る。

 都市高速を整備すれば、一般道路の交通渋滞の軽減、物流の効率化などのメリットが期待できる。その一方で、景観の毀損(高架の場合)、地下水の枯渇(トンネルの場合)などのデメリットもある。そもそもまっすぐな一般道路がないところに、どうルートを引くのかという問題もある。中心部はトンネルで抜くのが現実的だろうが、同市唯一の水道水源である地下水に影響が出ないルートを引けるかどうかは不透明だ。

 それらを考えると、検討会事務局が「都市高速ありきではない」とクギを刺すのもうなずける。現時点では、熊本市内に都市高速を整備する必然性、合理性が乏しいからだ。都市高速は手段であって、目的ではない。

 19年8月、熊本市内で「新たな道路交通ネットワークに関するシンポジウム」(主催:熊本都市道路ネットワーク検討会)が開かれた。パネリストとして出席した大西一史・熊本市長は「20年ぶりに新たな道路計画が作成される今のタイミングを好機と捉え、将来を見据えた計画案を早く出すことが、熊本の飛躍につながる」と発言した。大西市長が明言したのは「連続的な高架道路整備の検討」だが、パネリストのなかには、トンネルを掘り、新たな交通ルートを確保する案を披露する者もいた。

 常態化した都市課題の解決は、一筋縄ではいかない。財政的、技術的な困難を乗り越え、「熊本の飛躍」のためにどのようなソリューションを導き出すのか。“飛躍”という言葉にふさわしい施策を期待したい。

熊本都市圏の渋滞箇所(熊本都市道路ネットワーク検討会資料より)
熊本都市圏の渋滞箇所(熊本都市道路ネットワーク検討会資料より)
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熊本都市道路ネットワーク検討会
「熊本市にとって真に必要な将来の新たな道路ネットワークの構想・計画などについて、都市内交通の円滑化を踏まえつつ、あらゆる角度からの幅広い検討を行う」ことを目的に18年6月に設置。委員には、熊本商工会議所、熊本大学くまもと水循環・減災研究教育センター、国土交通省熊本河川国道事務所、熊本県土木部、熊本市都市建設局のメンバーが名を連ねる。会長は熊本市都市建設局長、事務局は国土交通省、熊本県、熊本市。

【大石 恭正】

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