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2020年02月27日 07:00

【シリーズ】生と死の境目における覚悟~第4章・老夫婦の壮絶な癌との闘い(3)

最後のラブレター~試練の3年間

 久人(仮名)は76歳(2016年)から79歳までの間、胃癌および肺癌、残胃癌、右肺縫縮術の手術を行い(傷病歴参照)入退院を繰り返す日々だった。彼の唯一の楽しみは趣味の将棋を小学生に教えることだった。さすがに2018年の手術後は、気力を失い、将棋を教えることも中断してしまった。久人にしてみれば、これが人生最後の楽しみだったのかもしれない。

 由紀(仮名)も同時期に再び肺癌(左)、肺癌骨転移が判明。抗癌剤治療を行い、久人同様、入退院を繰り返す生活になった。自宅でともに生活できる間は何事も必死でやり遂げるべく努力したものの、まずは買い物が不可能になり、子どもに頼らざるを得なくなる。また、自力で立ち上がることもおぼつかなくなってしまう。発病初期は久人の方が元気で、由紀を風呂に入れたりしていたそうだ。

 その後、いよいよ2人で生活するのが難しくなってきた。そこで頼ったのが、入浴補助をしてくれるヘルパーさん、家の掃除をしてくれるヘルパーさん、自宅で点滴を打ってくれる看護師さんたちである。しかし、当然ながら費用がかさんでしまう。週に2回、食事・食材の配達をしてもらっていたが、料理ができなくなると熱加工済の食品が届くようになる。すると食欲不振に陥り、体調が悪化してしまった。

 見かねた長男・清彦(仮名)夫婦が食材を買い込んで、料理をつくってくれるようになるが、さすがに毎日というわけにはいかない(詳細は次回)。

 久人・由紀夫婦は朝方と夜中に呼び合って、お互いの激励と生死の確認を行うのが日課となった。「あなた、生きているの?」「お前の方はどうなんだ?」声がかかるとすぐさま「生きているよ!!」と応じていた。「こんな辛い結末になるとは想像もしていなかった」と久人は悔んでいたという。

「隔離病棟」で過ごす

 久人・由紀夫婦というよりも清彦が「自宅で両親2人が生きていくのは不可能だ」と苦悩の末、決断してリハビリ病院への入院を決めた。しかし、あらゆる手を講じたものの、夫婦2人が同じ病院に入院することは叶わず、それぞれ別の病院に入院することになり、正月明けに入院を強行した(東京のリハビリ病院はどこも病床稼働率が100%に近い)。

 入院すると、2人が会うことは難しい。「『あなた生きているの?』と声をかけ、生きていると確認できた時の喜びは言葉に言い尽くせない。しかし、『隔離病棟では久人はどうしているのかしら、と心配しても、不安を抱いても』なにもできない。とてもではないが、孤独に耐えられなかった」と由紀は当時の心境を語る。

 言葉を代えると「久人はこの環境に適応できず、身体が衰弱して死んでしまった」ということになる。転院してわずか2週間、久人は1月25日、隔離病棟で永眠する。やはり男はここ一番でもろく、弱い。一方、女は強い。

 由紀は清彦に連れられ、57年間連れ添った久人の遺体と向き合った。「あなた、待っていてください。私もすぐに行きますから」と呟いたかどうかは定かではないが、終始、気丈な振る舞いを見せていたという。

勘違いのラブレター

 1月27日、葬儀場には久人を偲ぶ50人あまりが参列した。故人・久人はおそらく赤面していたのではないだろうか。

 久人は「由紀が先に逝くだろう」と予想して弔問客への挨拶を準備していた。もちろん、この弔辞が読まれることはなかった。長男が葬儀の挨拶を行ったからである。

 ここで由紀が亡くなったときのために久人が準備していた挨拶文を紹介しよう。それは、まさに由紀へのラブレターといえるものであった。

【弔問客への挨拶】
もし妻・由紀が先に逝ってしまった時は発声が困難な為、長男が代読する事

「本日はお忙しいなか、妻・由紀の為にご参列賜りまして誠にありがとうございます。
今までの由紀とともに歩んできた人生を顧みる時、つくづく思うのは彼女の芯の強さと何ものにもぶれない自我をきちんともっていたことです。
私の若気の余りの行動にもよく耐えてくれました。
そして長い人生のなかで幾度となく助言、励ましをくれました。
私には本当に過ぎた女房でした。その由紀が今から22年前に左肺癌を患い手術をしてことなきを得ましたが、肺癌と宣告されたときには唖然自失したものです。
1回目の手術から9年目に、今度は右肺に癌が出来、これも手術で取り去ることができました。
術後も極めて元気にしていましたが8年後に三たび左肺に牙をむいて出てきたのです。いったん牙を剥いた癌は容赦なく骨にまで浸食してしまいました。
放射線治療や抗がん剤を試みましたが、およばず今日を迎えることになった次第であります」

 読者の皆さん!故人・久人のように素直な気持ちで連れ添いに対する愛情を綴ることができますか?

(つづく)
【青木 悦子】

※登場人物は全て仮名です

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