不動産はローカル産業 日本でもユニコーンは生まれる
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規制産業のデジタル化をミッションに、2019年2月の設立から不動産テック分野のイノベーションに取り組む日本初のPropTech(不動産テック)特化型のベンチャーキャピタルである(株)デジタルベースキャピタル。代表の桜井駿氏は、17年より不動産スタートアップエコシステムの構築・発展を目指すコミュニティ「PropTech JAPAN」を設立し、19年9月には同コミュニティが1,000名を突破した。「不動産の市場規模からすると、まだまだテック企業のプレイヤーは数が少なく、チャンスは大きい」と指摘する桜井氏に、不動産テックの現状を聞いた。
リアルとの融合は現場との距離感
――求められる不動産テック企業とは、どのようなものでしょうか。
桜井 営業ができるテック企業でしょうか。業界の現場に足を運ぶ、不動産業界に何らかの原体験がある、業界を良くしようという思いが強いテックの起業家は強いですね。リアル産業の不動産業をターゲットとすると、便利なサービスを提供するだけでは、不動産業者は導入してくれません。
テック企業は、業界で働いている人たちへしっかりヒアリングして課題を掘り下げ、その課題を踏まえて彼らが使ってくれるサービスとして反映することがポイントです。求められるサービスをつくって普及させるためには、不動産業界の経験豊富なビジネスパーソンとスタートアップが連携して、既存のルールと新しいカルチャーが融合するチームを組成することが大切なことです。我々も行政や大企業、スタートアップとの交流に力を入れていますが、業界の「破壊」的なアプローチではなく、「共創」を心がけています。
不動産業界は、大手デベロッパーからほんの数人で切り盛りしている街の不動産仲介店舗まで、とても幅広い。どの部分をターゲットにするかによって、つくるべきサービスの内容は大きく変わります。大手と連携して大きな仕組みをつくるスタートアップと、オンラインサービスなどによって幅広く業界を狙うスタートアップの二極化が顕著になってきています。
――日本では、不動産に関する取引データが少ないといわれています。
桜井 不動産の賃料、価格を推計するベンチャーは多く登場していますが、あまり普及が進んでいません。理由は成約価格、賃料、売買価格、募集、人の移動などのデータを十分に集められないため、技術があっても査定ができないのです。私はこれを“調理場問題”と呼んでいます。スタートアップは不動産価格のアルゴリズムを開発しているものの、「MLS(エムエルエス)」というオープン化された不動産データベースが存在するアメリカと違って、日本には不動産価格のデータベースがありません。
そのため、元となるデータが少なすぎて、アルゴリズムの優劣を判断できない点に課題があります。データがそろっている“調理場”が、そもそも存在していないのです。政府や自治体がデータベースを整備し、かつプレイヤーにデータを公開するインセンティブを提供しなければ、信頼できるデータを集めることはできませんので、これをいかに進められるかが大きな課題ですね。
――注目している不動産サービスはありますか。
桜井 テーマ特化型の不動産活用に注目しています。美容師向けのシェアオフィスといったものはほとんど存在しませんが、非常に高いニーズがあります。美容師は、技術に自信があっても、独立しようと店舗を借りて、内装工事して、シャンプー台などをそろえて――となると、高額な開業資金が必要となります。美容師が身1つで美容室を借りられれば、すぐ開業でき、初期費用がかかりません。
また、出前館やウーバーイーツのようなフードデリバリー代行サービスの拡大で、実店舗をもたない宅配専門飲食店「ゴーストレストラン」は、まだ拡大の余地があると見ています。このように、不動産をリノベーションし、シェア美容室やゴーストレストラン向け調理場というリアルの不動産と集客や業務改善などは、オンラインのテックの力を活用し、両者のビジネスが融合していくケースが増えていくと考えます。
日本の地方にも大きな可能性ある
――日本国内や、とくに地方で、世界的なテック企業が生まれる可能性についてはいかがでしょう。
桜井 アメリカでは、不動産テック企業への投資額は年間で約4,000億円といわれていますが、日本ではまだまだスタートアップ企業への資金流入が少なく、スタートアップの数自体も多くありません。日本の不動産業の市場規模は40兆円以上といわれており、テック企業の存在感はまだまだ小さいのが現実です。ですから、新しくチャレンジする余地は十分にあります。世界的に見ても、不動産業はローカル産業なので、どこの国もドメスティックです。日本のサービスの先進性や多様性は世界に誇れる水準にあると思いますので、日本で世界的不動産テック企業が生まれる可能性も十分にあるのです。
また、東京と地方では、お金にも人にも差があります。地方こそITを活用すべきで、ここにも大きなビジネスチャンスがあります。必ずしも東京に居住する必要はなく、人と会うときだけ東京に行く、もしくはビデオチャットという手段もあります。ポテンシャルがあるからこそ、地方の魅力を発信し、課題を解決する起業家の登場を私たちも待望しています。
【長井 雄一朗】
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