2024年04月26日( 金 )

期限迫る義務化された有給消化

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岡本綜合法律事務所 代表 岡本 成史 氏
岡本綜合法律事務所 代表 岡本 成史 氏

 以前「有給休暇消化の義務化」について紹介しました。改正法が施行された2019年4月1日以後、最初に年10日以上の年次有給休暇(以下、有給)を付与する日(基準日)から、労働者に年5日確実に有給を取得させることが義務付けられました。そのため、最も早い場合には、今年3月末日までに有給を5日取得させる必要があります。今回は、期限も迫ってきたので、改めてこの制度についてご紹介したいと思います。

 本制度は、有給が10日以上付与される労働者(管理監督者、有期雇用労働者や一定の短時間労働者も対象)について、基準日から1年間に有給消化日数が5日未満の対象労働者に対し、企業から時季を指定して取得させるというものです。では、確実に5日の有給を取得させるには、どのようにすればいいのでしょうか。

 まずは、基準日に年次有給取得計画表を作成するなどして、有給を取得しやすい環境を整えることが重要です。また、有給の取得予定を明らかにすることにより、職場内において取得時季の調整がしやすくなるというメリットもあります。次に、労働者が年5日の有給を取得しない場合、使用者が年5日の年次有給を、取得時季を指定して与える必要があります。この場合、四半期ごと、半期ごとなどのタイミングで、有給の請求・取得日数が5日未満となっている労働者に対して、使用者から時季指定したり、過去の実績で取得日数が著しく少ない労働者に対して、基準日に使用者から時季指定をするなど、適時に行うことが重要です。でなければ、年度末の繁忙期に5日もの有給を取得させなければならないなど、業務にも支障をきたす可能性が出てきます。

 さらに、有給の計画的付与制度(計画年休)を活用する方法も考えられます。夏季や年末年始に有給を計画的に付与する、飛び石連休の谷間の平日を有給にして連休にするほか、年間を通じて業務の繁閑があらかじめ見込める業種では、閑散期に計画的付与を実施するなどが考えられます。計画年休を導入する場合は、就業規則に規定を設けるとともに、労使協定が必要ですので、導入に際しては弁護士などにご相談ください。

 ところで、ドトールコーヒーが昨年3月に導入した休日や有給取得に関する制度が、昨年10月に新聞などで報道されて物議を醸しました。それまで同社では、土日と祝日、年末年始を会社休日に設定していたものを、3月に就業規則を変更。「休日」を暦上の祝休日数に関係なく「年119日」に固定し、それ以上休む場合は有給休暇を使うよう社員に“奨励”するとしたのです。この変更で、祝休日が多い年では、「一部の国民の祝日が出勤日、かつ有給取得奨励日」になるとのことでした。このように、会社の休日制度自体の変更で、有給休暇の消化の義務をはたすことは許容されるのでしょうか。

 厚労省は、「法定休日ではない所定休日を労働日に変更し、当該労働日について、使用者が年次有給休暇として時季指定すること」や「会社独自に法定外の有給の特別休暇を設けていたのに、これを廃止し、年次有給休暇に振り替えること」について、ただちに違法とはしないものの、「実質的に年次有給休暇の取得の促進につながっておらず、望ましくない」との見解を示しています。また、労働者と変更について合意をしたのか、就業規則の不利益変更法理に照らして合理的なものであるといえるのか、という問題が生じ、このような変更が無効とされる可能性もありますので、ご注意ください。

<プロフィール>
岡本 成史(おかもと・しげふみ)弁護士・税理士
岡本綜合法律事務所 代表

 1971年生まれ。京都大学法学部卒。97年弁護士登録。大阪の法律事務所で弁護士活動をスタートさせ、2006年に岡本綜合法律事務所を開所。経営革新等支援機関、(一社)相続診断協会パートナー事務所/宅地建物取引士、家族信託専門士。

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