ブランド牡蠣の次を見据える JF糸島による浜の活力再生
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浜の活力を取り戻す
組合員である漁業者の収入向上を目標に掲げる糸島漁業協同組合(以下、JF糸島)は、海産物の販路拡大および適性価格実現のため、付加価値の創出に取り組んできた。
「2019年、JF糸島の『糸島カキ』として、地域団体商標を登録することができました。全国的に有名な広島や宮城と比べて、まだ歴史の浅い糸島カキですが、対馬暖流の恩恵に加えて脊振山系の山々からの豊富な栄養の流入など、豊潤な海で育つことで、ほかにはない特徴があります。漁の閑散期に何かできることはないかと、わずか数名で研究会を立ち上げるところから始まった牡蠣の養殖も、今では毎年500tを収穫するまでに成長しました。また、廃棄される牡蠣殻は、九州大学や福岡県を始めとした自治体とも協力して、肥料として再資源化を行うなど、これまでにはなかった新たな取り組みにもつながっています」(吉村寿敏参事)。
また、糸島カキに限らず、「サワラの高鮮度処理」による高鮮度出荷や、博多女子高等学校の生徒とともにつくり上げた「糸島産ふともずく」など、漁業の6次産業化やそれにともなう「糸島産」のブランド化が着実に進んでいる。さらに、地元・糸島の子どもたちに向けた魚食普及活動やさまざまなイベントも実施。JF糸島のこうした漁業再興に向けた多角的な取り組みは、「2018年度浜の活力再生プラン(※)」の最高賞・農林水産大臣賞受賞というかたちで高い評価を受けている。
(※)2014年度から水産庁が実施している漁村振興策。プラン作成・実施の中心となるのは漁協であり、5 年間の取り組みを通じて漁業者の所得を1割向上させ、それによって漁村を活性化することがプランの目標となっている。
地方漁業の可能性
漁業者が本当に届けたいものを、その心意気に見合った最高の状態と価格で市場に流通させる。その役割を担うJF糸島の代表的な販売所として知られるのが、(一社)糸島市観光協会と共同で運営する直売所「JF糸島 志摩の四季」であり、今や糸島の冬の風物詩となった「カキ小屋」である。
06年に誕生した志摩の四季は、旬の新鮮な海産物だけでなく、地元糸島の農産物や加工品も多く取りそろえている。また、施設内には飲食コーナー「志摩の海鮮丼屋」もあり、買い物だけでなく、その場で海鮮丼を中心とした食事を楽しむことも可能だ。カキ小屋は、13年に牡蠣養殖業者自らが各漁港で設立したのが始まり。その後、19年にJF糸島が岐志漁港で常設カキ小屋を9棟新設したことで、より多くの人が足を運べるようになった。
これらJF糸島の施設の集客および販売は上々で、志摩の四季には18年度の実績で41万人以上が訪れ、売上高6億2,826万円を計上。一方のカキ小屋(焼カキ小屋27軒、販売のみ3軒)も、同年度の実績で53万人以上を集客し、売上高は5億円超に達する。JF糸島の販売取扱高の4割をこうした直売所によるものが占めているほか、焼カキ小屋は働く場の提供にも貢献しており、650人もの雇用を生み出している。漁業者の収入の向上にもつながっており、JF糸島の取り組みは、地域内で経済が循環する本当の意味での“地産地消”の成功例といえる。
海産物のブランド化や情報発信、直売所の運営などによるJF糸島の“浜の活力再生”は、一朝一夕に真似できることではないが、低迷する多くの漁協にとっては、1つのモデルケースになり得ることは間違いない。参考にしようと視察に来る漁業関係者も少なくないが、必要なのは、異業種を巻き込む長期的視野に立った戦略、そして何より漁業者のことを一番に考える姿勢なのではないだろうか。
【代 源太朗】
「漁協が目指し、漁協に求められるもの――」
糸島漁業協同組合 参事 吉村 寿敏 氏
漁協に求められることは時代とともに変化しますが、基本となる部分は変わりません。漁業による成果に付加価値をもたらし、漁業者の所得向上をはたすことです。
JF糸島では、長年にわたって“浜の活力再生”に取り組んできました。1つのことだけに取り組むのではなく、複数の取り組みを同時進行で行ってきたからこそ、今日があると思っています。当初は漁業の6次産業化の最終目標として、自前の水産加工場を持つ計画もありましたが、後にカキ小屋の整備へと舵を切りました。このときの判断が奏功して、現在の「糸島カキ」につながっています。
魚のアラや、まだ小さい牡蠣でも、加工すれば立派な商品として提供することができますので、今後は、水産加工業者などと協力して、加工商品を増やしていきたいと考えています。漁業者への多岐にわたる販路提供を目標としていますが、それは単純に量販店と取引すればいいということではなく、「どうすれば漁業者が自分で成果物の価格を決められるのか」と知恵を絞るということです。
漁業者が創意工夫を凝らした商品を、適正価格で販売できる環境を整える。糸島の漁業者には元々、志摩の朝市や二丈の夕市で、自分で加工し、値段を付けて、顧客と対面で商談をしてきた経験や技術があります。それらを発揮できる場の提供や環境の整備に、これからも最大限の支援を行っていきます。
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