人工島の憩いの場・交流拠点 アイランドシティ中央公園
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変化続ける都市のオアシス
博多湾に建設された人工島「福岡アイランドシティ」。401.3ha(完成時)にもおよぶこの広大な埋め立て地では、1994年の事業着手から26年が経過した現在でも、住居と商業施設の整備を中心に開発が続いている。まちとしては、2005年12月から入居が始まり、19年12月末時点での居住者数は1万99人、世帯数は3,369世帯に上る(福岡市公表「登録人口(校区別)」参照)。かつては博多湾の海上で誰も住んでいなかった場所に、わずか十数年で1万人を超える新たな住民が移り住み、今では福岡市東区のなかでも有数の都市の1つへと変貌を遂げた。
そのアイランドシティでは、誰もが健やかに暮らし続けることができる「健康未来都市」を目標に掲げているが、島内の中心エリアに位置し、住民らに憩いの場として親しまれているのが、緑と水の公園「アイランドシティ中央公園」だ。
同園は道路を挟んで北側エリアと南側エリアに分かれ、2つのエリアは歩道橋で接続されている。メインとなる北側エリアの中央には大きな修景池を設け、その周囲に園路が整備されている様は、規模はやや小さいものの大濠公園を彷彿とさせる。池の西側には体験学習施設「ぐりんぐりん」が、池の東側には多目的広場や、遊具を備えたこどもの広場などが設けられている。また、歩道橋をわたった南側エリアには、福岡市の姉妹都市6市の特色が取り入れられた「国際交流庭園」などもある。
このアイランドシティ中央公園は、野鳥の通り道を「グリーンベルト」として残そうという思いとともに誕生した公園でもある。島内のグリーンベルトは、大きく4つのブロックで構成され、20年4月以降には公園内に新たなエリアが誕生する計画も進行中。これが3つ目のブロックとなる。最終的にはアイランドシティ北側で整備中の「アイランドシティはばたき公園」とともに、島内に広大なグリーンベルトが形成されることになるだろう。
古くからの街区を再整備するのとは違い、まっさらな場所で自由に都市計画を描くことのできたこのアイランドシティで、計画当初からこれだけの広大な公園・緑が意図的に確保されているのは、自然環境との共生や美しい町並み形成、そして防災拠点としてなど、公園のもつさまざまな役割・機能が都市にとっていかに重要なのかを示しているといえよう。
周辺の住環境への寄与を含め、まちの賑わいづくりに大きく貢献しているアイランドシティ中央公園。だからこそ、住民から寄せられる期待や、求められる役割は高まり続けている。今後も同園は、住民や利用者の日常に癒しと体験を提供する交流拠点として、まちとともに変化を続けながらも、さらなる賑わいを創出していくだろう。
【代 源太朗】
アイランドシティ拡張とともに中央公園の役割も変化
アイランドシティ中央公園 管理事務所 所長 牧野 元三 氏
アイランドシティ中央公園は、2005年に開催された第22回全国都市緑化フェア「アイランド花どんたく」のイベント会場として開園しました。指定管理が始まったのは07年からで、今日まで我々(株)西鉄グリーン土木が管理運営を担当させていただいております。指定管理を始めたころ、アイランドシティの住民は500人程度。周囲はほとんど更地で、コンビニすらありませんでした。それが昨年末で住民の数は1万人を突破し、3,000世帯以上が暮らす立派な都市へと変貌しました。商業施設も充実し、3月にはホテルも併設した複合商業施設「アイランド アイ」がオープン予定です。
福岡高速6号線の開通も控えており、5年後には3,850世帯、住民の数は現状よりさらに1万人以上増えることが予想されています。住民の増加とともに、公園利用者も増えていますので、管理運営に関しては「安心・安全」に利用できる公園を常に心がけています。そのなかで、枯れ枝の剪定や下枝をあえて落とすなどの樹木管理を行うことで、見通しが良い景観づくりにも取り組んでいます。また、園路や修景池側など、利用者の多い場所の芝生は月に2回のペースで刈るようにしています。
これは、小さな子どもたちを始めとする利用者の皆さまが、園内を安全、快適に楽しめる空間提供につながっています。公園の広さは18ha、管理運営は決して容易ではありませんが、住民の皆さまに愛され続ける公園を目指し、日々業務に努めています。
利用者を見ると、週末にお子さんを連れて遊びに来られるファミリー層が多い印象を受けます。平日ですと、学校帰りに遊びに来る小学生が目立ちます。また、アイランドシティ中央公園は、中核となる体験学習施設「ぐりんぐりん」の設計を、世界的に有名な建築家である伊東豊雄氏が手がけられたこともあり、建築を学ばれている学生さんたちの利用も少なくありません。利用者の皆さまに楽しんでもらえるように、「ぐりんぐりん」でかぼちゃのランタンや昆虫標本をつくったりといったワークショップや、建築関係のイベントなど、多種多様な催しを企画・開催しています。おかげさまで、多くの方々に施設を利用していただいております。
アイランドシティに拠点を構える企業も増えていますので、今後はビジネスマンや観光客からの利用も見込まれます。憩いの場としての快適さを保ちつつ、そういった方々から交流の場としても利活用していただけるような取り組みも視野に入れた管理運営を行っていければと考えています。
【体験学習施設「ぐりんぐりん」内には亜熱帯の動植物などが飼育・展示中】
熱帯地方のチョウ「オオゴマダラ」にも会える
アイランドシティ中央公園の意匠
伊東豊雄建築設計事務所 伊東 豊雄 氏
――アイランドシティ中央公園のデザインコンセプトで最もこだわった部分とその理由についてお聞かせください。
伊東 コンセプトは大きく2つあります。まず、埋立地であるアイランドシティはまったく平坦な土地だったため、少しでも起伏をつけることで、さまざまな場所に変化を生み出したいと考えました。2番目は、渡り鳥が戻ってくることを願い、中央に雨水を貯めることで池をつくり出しました。この2点がとくにこだわった部分です。
――公園の設計を手がけるうえで、最も重要なことは何だと考えられますか。
伊東 西欧的な概念である公園に対して、日本には庭園と呼ばれる場所・空間があります。伝統的に、日本では庭園を“自然の映し”のようなものと考えてきました。この日本の庭園に近い自然の捉え方を、公園にも取り入れたいと常に考えています。流動的な空間で、柔らかな水や風の流れを感じることができる場所・空間をつくっていきたいです。
――Park-PFI(2017.6月施行)施行前後で設計提案の幅は広がりましたか。Park-PFIによって今後どのような効果が期待できるとお考えですか。
伊東 施行前後で大きな変化があったかどうかについては、現状ではどちらとも言えません。ただ、福岡でいえば、気候が良いので就業後の夕方に屋外空間を楽しむ習慣があるように感じます。民間の力が発揮されることにより、より多くの人々で公園が賑わうようになればいいなと思います。
――最後に、都市における公園の役割について考えをお聞かせください。
伊東 福岡のような大都市では、人々の生活が自然から切り離され、人工的な空間で完結しつつあります。そのような状況下で、公園は人々がもう一度自然に接する場であり、そこにやって来る野鳥や動物がいる環境のなかで、動物的感性を呼び覚ます場所であってほしいと考えています。
<プロフィール>
伊東豊雄建築設計事務所 伊東 豊雄(いとう・とよお)氏
AIA名誉会員/RIBA名誉会員/くまもとアートポリス・コミッショナー
1941年京城市(現・ソウル)生まれ。65年に東京大学工学部建築学科卒業後、69年まで菊竹清訓建築設計事務所に勤務。71年に(株)アーバンロボット(URBOT)を設立し、79年に事務所名を(株)伊藤豊雄建築設計事務所に改称。86年日本建築学会賞作品賞(シルバーハット)、98年芸術選奨文部大臣賞(大館樹海ドーム)、2002年ヴェネツィア・ビエンナーレ「金獅子賞」、13年には建築界のノーベル賞とも称される「プリツカー賞」など、数々の賞を受賞している。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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