2024年03月19日( 火 )

「天網恢恢疎にして漏らさず」~最終的には東京五輪は中止?(1)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 先日のIOCトーマス・バッハ会長の発言「東京五輪は予定通り」(3月3日)から一転して、3月25日には「東京五輪は1年程度延期する」ことが正式決定した。一貫して人道的立場から「東京五輪」開催に警鐘を鳴らし続けてきた、村田光平元駐スイス大使・東海学園大学名誉教授に聞いた。村田氏は「最終的には東京五輪は中止になるのではないか」と危惧する。それはなぜか。

 一方、今SNS上で、漫画『AKIRA』(大友克洋著作で1982年~1990年にかけて講談社の漫画雑誌『週刊ヤングマガジン』に連載)の話題が沸騰している。同漫画の1シーンのなかに「東京オリンピック開催迄あと147日」(今年2月28日に相当)という大書された看板が登場、そのすぐ下には黒い文字で「粉砕」、白い文字で「中止だ 中止」と書き込まれているからだ。『AKIRA』は、その高い予言的中率から、欧米の科学者などに隠れたファンが多いことで有名である。

元駐スイス大使・東海学園大学名誉教授 村田 光平 氏 

商業主義一色に塗りつぶされた現在のIOCの正体が暴露

 ――「東京五輪は1年程度延期する」ことが正式決定しました。先生はこのニュースをどのように受け止められましたか。

村田 光平 氏

 村田光平氏(以下、村田) 3月3日のトーマス・バッハ会長の発言「東京五輪は予定通り」は、クーベルタン男爵の始めた近代オリンピックの精神オリンピック憲章 参照)がまったく失われ、「商業主義」一色に塗りつぶされた現在のIOCの正体が白日の下にさらされたものと受け止めていました。そこには科学的根拠はまったくなく、北米テレビ局(ロサンゼルスオリンピックを境に商業主義が導入され、米国ではメジャースポーツの開幕、終幕のはざまに、五輪を放映して稼ごうと考えるようになった)など巨額の協賛金を払うスポンサー企業にIOCが巨額の放映権料の支払いで同意、その顔色をうかがう姿勢が見えていたからです。

 「原子力緊急事態宣言」(2011年3月11日の16時36分に発令)下にある福島原発問題が終わっていない(under controlではない)ことは国内外の常識となっています。しかし、IOCの関係者は福島原発の「放射能」問題には目をつぶってきました。それに加えて、「新型コロナウイルス」騒動が起こりました。東京五輪は「コロナ禍と放射能の“人体実験”」の様相を呈していたのです。私は今回の「新型コロナウイルス」騒動と福島原発の「放射能」問題とは、人道的立場から、まったく無関係とは思ってないばかりか、とても密接に結びついている、表裏の関係にある、と考えております。

 そもそも事の起こりは13年9月のIOC総会の招致演説で、安倍首相が福島第一原発事故について、汚染水が海に流出を続けていたにもかかわらず、「状況はコントロールされている」と虚偽の言明をしたことに始まっていることを、東京五輪関係者は、いまこそ真摯に受け止めるべきです。現状では「東京五輪は1年程度延期する」としても、本質的な問題は何1つ解決しません。最終的に中止に追い込まれるのではないかと危惧しております。1896年アテネ大会から始まった近代五輪が、夏季・冬季を通じて開催年を延期したことはありません。

(つづく)

【金木 亮憲】

【オリンピック憲章】(オリンピズムの根本原則から抜粋)^
 1.オリンピズムは人生哲学であり、肉体と意志と知性の資質を高めて融合させた、均衡のとれた総体としての人間を目指すものである。スポーツを文化や教育と融合させるオリンピズムが求めるものは、努力のうちに見出される喜び、よい手本となる教育的価値、普遍的・基本的・倫理的諸原則などに基づいた生き方の創造である。
 2.オリンピズムの目標は、スポーツを人間の調和のとれた発育に役立てることにある。
その目的は、人間の尊厳保持に重きを置く、平和な社会を推進することにある。


<プロフィール>
村田 光平
(むらた みつへい)
 1938年東京生まれ。61年東京大学法学部を卒業後、2年間外務省研修生としてフランスに留学。その後、分析課長、中近東第一課長、宮内庁御用掛、在アルジェリア公使、在仏公使、国連局審議官、公正取引委員会官房審議官、在セネガル大使、衆議院渉外部長などを歴任。96年より99年まで駐スイス大使。99年より2011年まで東海学園大学教授。
 現在、(公財)日本ナショナルトラスト顧問、日本ビジネスインテリジェンス協会顧問、東海学園大学名誉教授、天津科技大学名誉教授。
 著書に『新しい文明の提唱‐未来の世代へ捧げる‐』(文芸社)、『原子力と日本病』(朝日新聞社)、『現代文明を問う』(日本語・中国語冊子)など。

(2)

関連記事