2024年04月19日( 金 )

世界の注目が集まっている韓国のコロナ診断体制(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏

 韓国の大量診断体制のもう1つの特長といえば、公衆保険医の存在である。韓国では災難が発生すると、真っ先に軍人が現場に投入される。今回の新型コロナウイルスが発生した際にも、軍人が投入された。一般の軍人ではなく、医師、歯医者、漢方医などの公衆保険医が大挙投入されたわけである。韓国の南部の大邱で新型コロナウイルスの患者が急激に発生した際に、公衆保険医385名が急遽現場に送り込まれた。この制度は初期の段階で大きな力を発揮することになる。

 日本では医療体制が崩壊するなどの議論で行動ができない反面、韓国では公衆保険医の投入はいつでも決断できるので、素早い対応ができたわけだ。もう1つ世界から注目が集まっているのは、コロナウイルスの検査に「ドライブスルー」を導入したことである。「ドライブスルー」とは、検査を受けたい人は、屋外に設置されている選別診療所を訪ねて、車に乗ったまま検査を受ける検査方法である。

 普通の検査方法では、検体を採取する際、医師は着用している防護服を、1人の検査が終わるたびに、着替える必要があり、1人分の採取に、1時間くらいの時間がかかってしまう。ドライブスルー方式なら、防護服を脱ぐ必要がないので、時間がかからず、手袋の交換だけで済む。車に乗ったままで検査を受けるので、ほかの検査対象者への感染を防ぐこともできるメリットもある。外信では、韓国のこの検査方法を連日話題にしている。

 ドライブスルーの検査方法は、仁川医療院感染内科の課長である金珍用(キム・ジンヨン)氏が提案して実現した方法である。安全で効率的な検査方法を悩むなかで、インフルエンザとか生物兵器のテロなどで大量検査をしないといけない状況を扱った海外の論文で、そのヒントを得たとされる。その提案を韓国の地方自治体が素早く実行に移したことによって、この方法が普及することになった。ヨーロッパではイギリスとドイツ、ベルギー、デンマークなどが、この検査方法を導入している。豪州でもこの検査方法は登場している。感染の拡大が増えるにつれて、この検査方法の導入は増えていくことに違いない。

 ところが、このような大量検査に対する反対意見も存在する。治療薬がない現在では、検査をして陽性と判定されても、治療が受けられないので、不安になるだけだという意見もある。ドライブスルーの検査方法やPCR検査法など、どのような検査も完璧な方法はない。しかし、一方では、不安を抱えた状態よりは、まず検査を受けたいという要望が多くあるのも現実である。

 韓国政府はまず大量検査を実施して、その情報を透明性をもって公開することによって、国民の不安を払拭したいということに政策の重点を置いている。それから韓国の食品医薬安全庁でも、承認の期間を大幅に短縮した緊急使用承認 (Emergency Use Authorization:EUA)をすることで、診断キットが利用できるようにしたのだ。

 アメリカのFDAも同様なスタンスを取っている。韓国は2015年MERSの苦い経験を生かし、新型コロナウイルスが蔓延すると、経済的にどのような打撃があるかも痛感したので、法律も整備し、このように迅速な対応ができるようになったわけだ。新型コロナウイルスが終息したわけではないので、大量検査をめぐって、その功罪を議論するのは早いかもしれないが、韓国政府は上記のような背景で大量検査が実現できるようになったのだ。

(了)

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