2024年03月19日( 火 )

どうなるこれからの新幹線 計画から50年で開業は半分(中)

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九州新幹線(西九州ルート)のいわゆる「フル規格化」をめぐって、国と佐賀県のつば迫り合いが続いている。西九州ルートは現在、在来線(博多~武雄温泉)と新幹線(武雄温泉~長崎)を乗り継ぐリレー方式で整備が進められているが、国はリレー方式について暫定的な措置であるとして、未着工区間(新鳥栖~武雄温泉)の新幹線整備を求めている。一方、佐賀県は600億円に上る地元負担金、並行在来線の存続などを理由に、フル規格化に反対している。西九州ルートのフル規格化がどう決着するかは、将来の日本の新幹線整備の行方を左右するといっても過言ではない。「西九州ルートのフル規格化がストップすれば、その他の新幹線には手を付けられなくなる」(自民党国会議員)実状があるからだ。西九州ルートを含め、これからの日本の新幹線はどうなるのか。

地元負担がある限りいつまでも新幹線はできない

 自由民主党所属の参議院議員で、与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームのメンバーでもある西田昌司氏は、新幹線整備の経緯について次のように分析する。

 新幹線はもともと、日本国有鉄道(国鉄)が独自の事業として行っていたが、国鉄がJRに民営化されて、事業主体がなくなってしまった。これによって、整備新幹線という上下分離になり、国が新幹線を整備し、運営をJRが行うというカタチに変わった。

 ところが、国が整備する段になって、バブルが崩壊。「国の公共事業はムダだ」という話になり、公共事業の予算は今、ピークの3分の1に減り、新幹線の予算も大きく減った。鉄道予算が減った背景には、鉄道は時代遅れであり、これからはモータリゼーション(車社会化)だという考えがあった。『鉄道より、高速道路に予算をつけろ』ということになって、それ以降は細々と鉄道整備、新幹線整備が行われるようになったわけだ。

 現行の公共事業方式はやめるべき。全額国費で整備すべきであり、地元負担はゼロにすべきだ。もともと東海道新幹線は、国鉄が整備したもので、地元負担はなかった。だからスムーズに整備できたし、並行在来線の問題もなかった。しかし、地元負担がある限り、新幹線整備に反対する自治体は必ず出てくる。そんな状況では、新幹線はいつまで経ってもできない。

 西田氏の主張は、緊縮主義者には暴論に聞こえるかもしれない。公共事業方式については後で詳述する。ただ、全国の新幹線路線のなかでもっとも収益性の高い東海道新幹線は、上下一体方式のもと、全額国費で整備された。基本計画路線(整備計画路線含む)は、東海道新幹線と比較すると、収益性の劣る地方路線ばかりなのに、全額国費ではなく、地元負担が必要になっているわけだ。鉄道インフラ政策として見れば、明らかにバランスがおかしいのはたしかだ。

 この点、鉄道局は「建設費から貸付料の充当分が差し引かれるうえ、地方負担のうち90%に起債が認められる。そのうち最低50%(財政規模に応じて最大70%)は交付税措置が充てられる。従って、実質の地方負担は相当に抑えられる。沿線の市町には新幹線鉄道施設がもたらす固定資産税も入り続ける」と現行スキームを擁護する。

 公共交通インフラを研究領域とする波床正敏・大阪産業大学工学部都市創造工学科教授は、地元負担について次のように分析する。

 そもそも地元負担させる必要があるのか疑問がある。しかし、誰も議論しようとしない。九州新幹線(西九州ルート)では、沿線の佐賀県が『新幹線は必要がない』と主張し、新幹線建設は実質的にストップしている。佐賀県の主張は、負担がメリットと釣り合っていないというものだが、それはその通りだ。ただ、沿線自治体だとしても、『新幹線整備を阻止する権利がある』とは考えにくい。落とし所としては、『費用負担なしで、新幹線を通す』が考えられる。

大阪産業大学 工学部都市創造工学科 教授 波床 正敏 氏

財政力ない自治体、新幹線が通らない

 現行の整備新幹線スキームでは、ヒト・モノ・カネが集まり財政力のある自治体には新幹線を引っ張ることができるが、そうでない自治体ばかりの地域には、なかなか新幹線が通らないスキームになっているといえる。数百億円規模の地元負担には、もれなく地元住民の反対もつきまとう。整備新幹線スキームは、課金などの設定が悪辣で、よほどの物好きでないとプレーしない“クソゲー”に似ている。

 現行の整備新幹線スキームにはいろいろ欠陥があるので、改善する必要があるといいたいわけではない。このスキームは、新幹線整備するための制度ではなく、しにくくするための制度であって、それは明確に意図されたものだと指摘したいのだ。実際、基本計画策定から45年を経ても、11路線の整備計画の策定のメドすら立っていない。すでに建設中にも関わらず、佐賀県が新幹線整備に反対しているのは、佐賀県のエゴでも何でもなく、制度設計者によってあらかじめ仕組まれたことだと考えれば、ストンと腹に落ちる。

 そんな状況のなか、新たに工事着工しようとしている整備計画路線がある。「北陸新幹線(小浜京都ルート)」だ。北陸新幹線は現在、金沢~敦賀で工事が行われているが、敦賀からさらに新大阪まで延伸する動きがある。敦賀~新大阪の最終的なルートは、環境影響評価(アセスメント)で若干修正される可能性はあるが、今のところ敦賀から小浜、京都を経由し、JR松井山手駅を経て新大阪に至る「小浜京都ルート」で確定している。開業(時期未定)すれば、東京~新大阪を結ぶ3つ目の新幹線ができることになる。

 西田議員は、与党プロジェクトチームの北陸新幹線敦賀・大阪間整備検討委員会委員長として、小浜京都ルートの実現に関わってきた。西田議員は、新大阪からさらに関西国際空港まで延伸し、最終的には関西空港から淡路島を渡り、徳島につなげるという独自の構想ももつ。「実現すれば、関空まで北陸から1時間、関西圏から30分、四国からも1時間で行けるようになる。中国地方や中部地方で考えても2時間以内。その経済効果は計り知れないものがある」と力を込める。

 ただ、小浜京都ルートのプロジェクトは始まったばかり。具体的なスケジュール、最終的なルート選定、地元負担の確定などは、これからの議論によってどうなるかわからない。約140kmの延長のうち半分が通る京都府の負担は、1,000億円以上とされるが、京都府や京都市など地元自治体、地元経済界などは、新幹線整備に前向きな姿勢を見せている。京都市のホームページ内の北陸新幹線の特設ページには、「北陸新幹線が、千年を越えて日本の文化の中心であり、今も世界の人々を魅了し続けている京都を通ることは、日本の未来にとって必要」と謳われている。現時点での話だが、「北陸のために、京都が支出する金はない」などという異論が噴出していないのは流石だ。大きなプロジェクトには、それをまとめるちゃんとしたリーダーが必要ということなのだろう。

(つづく)
【大石 恭正】

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