2024年03月29日( 金 )

コンパクトシティ・福岡 4つの高級住宅街の特徴(2)

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浄水通(中央区) 福岡の山の手エリア

 福岡市内における高級住宅街として、真っ先に名前が挙がる地区の1つが中央区の「浄水通」だ。

 浄水通は、城南線の薬院大通駅前交差点から福岡市動植物園方向に向かって約800mの長さで真っすぐに伸びる緩やかな傾斜の並木道である「浄水通り」(正式名称:市道薬院南公園線)の両側に形成された住宅街である。少々表記がまぎらわしいが、「浄水通」が町名で、「浄水通り」が通りの名前だ。

 通りの両側にはおしゃれなカフェやスイーツ店、レストラン、ギャラリー、フラワーショップ、結婚式場などが立ち並ぶほか、少し通りを入ればいくつかの教会が集積するなどちょっとした異国情緒もあり、散策にはぴったりのエリアとなっている。通りを上って行った先には福岡市動植物園などを擁する南公園があり、都心にありながらも自然と緑にあふれた住環境の良い浄水通一帯は、福岡の“山の手”エリアといっても差し支えないだろう。

通りの両側に高級分譲マンションなどが立ち並ぶ

 浄水通という名称は、通りを上った先にあった「平尾浄水場」に由来している。1923(大正12)年12月に福岡市初の浄水場として完成した平尾浄水場だが、当時は今ほどポンプ技術が発達していなかったため、高台につくることで、高低差を利用した自然落水によって福岡市内への給水を行っていた。その給水管が埋設されていたのが現在の浄水通りで、上に建物を建てられないことで道路になったとされており、市内では珍しいほぼ直線に伸びる坂道であることも、その名残だ。

 福岡市内でも有数の高級住宅街として知られている浄水通だが、そのエリア面積は約6万1,000m2とそれほど広いわけではなく、近隣の大豪邸のすべてがここに集積しているかといえば、そうでもない。浄水通から見て西側の「御所ヶ谷」(約7万8,000m2)や、東側の「平丘町」(約2万2,000m2)、南側の「平尾浄水町」(約10万4,000m2)にも、浄水通に負けず劣らずの大豪邸が立ち並んでおり、浄水通を中心としたエリア一帯が高級住宅街となっている。浄水通り沿いに高級分譲マンションが立ち並び、どちらかというと戸建住宅は平尾浄水町や平丘町などの少し高台に集中している印象だ。

高台の平尾浄水町や平丘町には豪華な戸建住宅が多く存在する

 このエリア一帯が高級住宅街としての歴史を歩み始めたのは、大正末期から昭和の初めごろにかけてで、ちょうど前述の平尾浄水場の開業期とも重なる。当時の浄水通一帯は、福岡市の山手で緑に囲まれた閑静な地域で、都心部からもそう離れていないことからも、住宅地として最適と見られていた。

 また、1927(昭和2)年には城南線(路面電車)が開通し、その3年後に複線化されると、交通の便も格段に向上。こうした背景から、浄水通の一帯では次々と高級住宅が建設されていったのだが、とくに多かったのが九州大学医学部の教授宅だったという。実に、当時の医学部教授の約3分の1が浄水通に自宅を構えていたとされ、そのことから浄水通りは当時、通称“医学部通り”とも呼ばれていたという逸話もある。

 余談だが、浄水通の北側に隣接する「薬院」は約1300年前の奈良時代に、遣唐使である吉備真備(きびの・まきび)が大宰府に赴任した際に、病人の施薬治療を行う施設「施薬院」をこの地に開設したことがその名の由来とされており、江戸時代には多くの医者が住んでいたとされる。薬院のすぐ南側に隣接する浄水通に九大医学部の教授宅が集積していた背景には、こうした医療関係者が集まる土地柄があったのかもしれない。

 なお、浄水通を中心とした界隈には、「丁目」の設定がない単独町名の地区が並ぶ。前出の浄水通や御所ヶ谷、平丘町、平尾浄水町のほかに、山荘通、薬院伊福町、古小烏町などだ。これは、1959年に福岡市で町界町名の改正が行われた際に、浄水通一帯を「青葉通り」という町名で統一して「1丁目」「2丁目」に区分しようという案がもち上がった。

 だが、審議会の委員のなかから「御所ヶ谷という地名は由緒があるから残すべき」という意見が出て、まず御所ヶ谷の町名残存が決定。そうすると収まらないのが近隣の町で、「ならばウチの町名も残せ」という意見が噴出した。とくに浄水通は前述のように九大教授などの“うるさ型”がそろっていたため、市側も押し切られて一帯の旧町名がすべて残ることになり、福岡市内でも特異な小町分立の状態が現在まで続いている。

 現在、北側に隣接する薬院エリアの九電記念体育館跡地(19年3月末閉館)では、積水グループが「(仮称)グランドメゾン浄水ガーデンシティ セントラルフォレスト」(2棟、総戸数297戸)を開発予定。新たな高級分譲マンションが加わるなど浄水通一帯は刷新を経つつも、品格ある高級住宅街としてのブランドイメージを保ち続けている。

【坂田 憲治/代 源太朗】

(つづく)

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