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2020年07月04日 07:00

イージス・アショア中止は日本発の防衛システムへの転換点(3) 未来トレンド分析シリーズ 

国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

 実は、EMP攻撃のリスク分析はアメリカでは20年前から行われている。というのも、国防総省そのものが、仮想敵国を標的にしたEMP兵器の開発に取り組んできたからだ。「攻撃は最大の防御」との発想が根強いアメリカである。そのため、外国からのEMP攻撃を想定し、国内の電子機器の共振を防ぐ対策を重ねてきている。

 残念ながら、日本では北朝鮮対応に限らず、脅威の捉え方が漠然としており、具体的な対策の立案も実施もなされてこなかった。常に受け身で、万が一の場合にはアメリカに救援を要請すればいい。そのための日米安保条約であり、「思いやり予算」や「FMS」を通じて年間1兆円近くもアメリカ製の兵器を購入している、というのが日本的な“他力本願“であった。

 しかし、これではアメリカの軍需産業の思うつぼだ。古くなったミサイルや兵器類を「在庫一掃セール」の如く、しかも高く売りつけるのがアメリカ式の“戦争ビジネス”といっても過言ではない。日本とすれば、いくら同盟国とはいえ、これ以上、効果が立証されていない兵器を買い増す愚は繰り返すべきではないだろう。

 その意味では、今回、河野大臣が日米間の防衛ビジネスのタブーに切り込んだわけで、日本の防衛論争に一石を投じたことは間違いない。歴代の防衛大臣経験者ではとても決断できなかった決断だろう。何しろ、安倍首相も「本気か?」と絶句したというし、アメリカからも「あり得ない。この落とし前は高くつくぞ」と猛反発の波が押し寄せつつあるようだ。

 アメリカのミサイル防衛庁は「日本による寝耳に水の中止通告をそのまま受け入れるわけにはいかない。先ずは、日本政府に考え直すように働きかける」と、冷静さを装うが、驚きの色は隠せない。

 「日本は脅せば、何でもいうことを聞く」がモットーのトランプ大統領だが、大統領選挙を控え、コロナ対策のみならず、国内で深刻化するばかりの人種間対立に足をすくわれ、「シンゾー、何てことをしてくれたんだ!俺の再選を邪魔する気か?」といった得意の恫喝メッセージを発する余裕はないようだ。

 河野大臣がどこまで、こうしたアメリカの国内事情を考慮し、今回の中止発表のタイミングを選んだのかは不明である。しかし、「アメリカ通」を自負する河野大臣だ。自らの政治生命を賭けてのことに違いない。涙を流しながらの記者会見には、最近ではめったにお目にかからない憂国政治家の熱い思いも感じられた。「ポスト安倍を意識し、勝負に出た」との見方も永田町では広がりつつある。

 それにしても腑に落ちないのは安倍首相の対応である。記者会見の場で「朝鮮半島では緊迫の度が高まっています。今こそ、安全保障戦略の新たな方向性を打ち出さねばなりません」とサラリというだけで、「北朝鮮の核やミサイルへの対応策として導入を決めたはずのイージス・アショア」を突然、停止することに至った説明は皆無である。

 もちろん、河野大臣が説明したように、イージス・アショアの迎撃ミサイルを発射した際に切り離す「ブースター」と呼ばれる推進補助装置が住宅密集地に落下する危険を回避できないことが判明し、それを回避するためにはソフトとハード両面にわたる改良が必要で、そのためには新たに2,000億円の経費と12年もの時間が必要になるという。「目前の脅威に対応するため」と言いながら、このスピード感のなさと、金銭感覚の欠如には開いた口が塞がらない。国民の多くが不信の思いに駆られるのも当然のことだろう。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

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