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2020年07月03日 16:57

この世界、どうなる?(8)「マイアミ・ナイス」

広嗣まさし(作家)

バイカルチャーのマイアミ

 私が学生のころ、日本のテレビでは「マイアミ・バイス」というアメリカ製のテレビドラマが流行っていた。私自身は「どうせくだらない犯罪捜査ものだろう」とタカをくくっており、しっかり見たことはかった。しかし、ドラマ・アナリストによると、「よくできたシリーズ」だったそうだ。

 それはそうと、このドラマのせいで、マイアミは「犯罪の巣窟」というイメージが世界中に行きわたった。私自身も実際に現地を訪れるまで、そういうイメージだった。キューバに近く、そこからの難民が押し寄せてきて、まともな職にありつけないとなると麻薬商売に手を出す。はじめは使い走りでも、やがて親分に気に入られ、闇世界で暗躍するようになるのだ。

 ところが、この町に一歩を踏み入れると、まずその空の青さに圧倒される。都市の中心部のオフィス街では、どの建築もすばらしい。青い空にくっきり映る白い塔の林立。そのかたちが街路のヤシの木を模したようで、感嘆せざるを得ないのだ。アメリカの都市建築といえば誰しもがシカゴを語るが、マイアミには別の造形美がある。自然との調和がすぐれている。

 マイアミにはほかのアメリカ都市と決定的に違う点がある。住民のほとんどがバイリンガルだという点だ。つまり、ここはアメリカでありながらアメリカではない。キューバやハイチなどのカリブ海諸国のみならず、ベネズエラやコロンビアといった南米諸国からの移住者が多いのだ。町のどこに行ってもスペイン語が聞こえる。そして、彼らに英語で話しかければ、完璧な英語が返ってくる。

 メキシコ人は少ない。遠すぎるのだ。メキシコ人はテキサス、ニューメキシコ、アリゾナ、カリフォルニアに行く。そういうわけで、アメリカの南東部と南西部は中南米色が濃いのだが、なかでもマイアミは完全にバイリンガルである点で、突出している。

 バイリンガルであるとは、「バイカルチャー」ということだ。これは何を意味するかというと、彼らの存在がアメリカを不断に変えるということだ。高校時代に物理だか化学だかの先生が、「あるシステムが閉鎖されている場合、徐々に内部のエネルギーが失われ、最後に無に帰す」というようなことを言っていたが、マイアミを見ているとその逆である。既存のシステムに次から次へ外から新要素が入ってくるために、システムはいつまでも高いエネルギーを保てるのだ。
 言い換えれば、1分前のシステムは、今はもはや存在しないということになる。システムそのものが刻々と変化していく。それについていくことが、すなわち「生き延びる」ことなのだ。

 アメリカ全体がそういうシステムなのかもしれない。それに乗り遅れたのが南北戦争で敗れた南部である。ルイジアナやミシシッピーやアラバマは人種差別が激しいことで知られるが、トルーマン・カポーティーが『冷血』(1965年)で描いたような凶悪犯罪を生み出す地域としても名高い。それもそのはず、南部はアメリカの恥部という役割を担わされているのであり、変化し続けるシステムのもつ危険度を知らせるシグナルともなっているのだ。

複合文化国家・アメリカ

 それにしてもマイアミはすばらしい。「マイアミ・バイス」(マイアミの悪)どころか、「マイアミ・ナイス」なのである。まだこの都市は若く、ニューヨークのような味わいはないかもしれないが、将来性という点で高く評価され得る。「危険はないのか」といわれれば、アメリカのどこでも危険はある。しかし、危険な地区に近づきさえしなければ、極めて安全である。

 あるとき、小さなスーパーに入ってミネラルウォーターを買った。いくつも種類があるので、どれが良いのか迷っていると、年配の婦人が近づいてきて、「コレ、オイシイデス」といきなり日本語で言った。見るとその婦人、にっこり笑って、「日本人でしょう?」という。そうだと答えると、「昔はよく東京に行った。ビジネスで。オヒサシブリ、オツカレサマ、オカネ、オカネ・・」と知っている日本語を並べた。

 この婦人、金髪ではあったが、どうもユダヤ人のように思われた。さすがに、直接聞くわけにもいかなかったが、一般のアメリカ人とは、異文化への接し方などが異なっているように感じた。「日本人は面白い。小切手をまったく使わず、大きな袋にお札を詰めて持ち運んでいた。そして、仕事が終わると、一緒にビールで乾杯した。楽しかった、あの頃」といかにも懐かしそうに振り返った。マイアミはニューヨークのユダヤ人が退職後に隠居する都市として知られている。その婦人もそのような老人たちの1人だったのであう。

 スタバのようなチェーン店はどうも白人社会の雰囲気が濃厚だ。一方、キューバ人街「リトル・ハバナ」では極上のコーヒーがわずか90セント(100円)で飲める。そこに行けばカリブの音楽が充満し、「ここがアメリカか?」と不思議な気分になる。だが、よく考えれば、これこそが「複合文化国家・アメリカ」なのだ。

(つづく)

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