2024年04月16日( 火 )

相次ぐマンションの設計偽装~デベロッパーと行政の「不都合な真実」 仲盛昭二氏 緊急手記(2)

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(協)建築構造調査機構 代表理事 構造設計一級建築士 仲盛 昭二 氏

ラ・ポート別府
(震度7の地震を想定し製作したCG)

 筆者が所有している別府市のマンション「ラ・ポート別府」でも設計の偽装が明らかになったため、区分所有者として、建築確認を行った大分県および別府市に対し質問書を送付した。大分県は「建築確認資料の保管期間が過ぎている。確認済証と検査済証を交付している」と回答し、別府市は「大分県から書類を引き継いでいない」という回答だった。
 大分県と別府市の回答文書には公文書としての番号の記載がないため、正式な公文書ではなく、それぞれの課長の私文書に過ぎず、逃げ道をつくっている。これは市民を愚弄した行為だ。

(大分県建築住宅部長からの回答)
 建築確認申請書類は保存年限を過ぎており残っていないが、当時、建築確認済証および完了検査済証を交付していることから、建築確認申請時の基準は満たしていたものと考える。

(別府市建築指導課長からの回答)
 大分県より引き継いだ台帳にて、確認申請および完了検査が行われた履歴は確認できる。

検査済証は構造計算の適正性を証明する書類ではない

 新栄住宅(株)や大分県の回答に「建築確認済証および完了検査済証を交付していることから、建築確認申請時の基準は満たしていた」とある。

 建築基準法第7条の条文には「建築基準関係規定に適合している場合、検査済証を交付」とあり、条文だけを見れば、新栄住宅や大分県の主張は間違いではない。しかし、完了検査は、建築確認を受けた図面通りに施工が行われているかをチェックする。つまり、図面と現場の整合性の確認だけであり、設計が適切かどうかを判断するものではない。設計が適切に行われていることを前提として検査を行うため、前提である設計が偽装されていれば、偽装された図面に基づいた施工に対して、検査済証を交付してしまうのだ。

 確認済証については、本来なら適正・適法な設計であることを確認した証として確認済証が交付されるのだが、審査において偽装を見逃したまま確認済証を交付しているのだから、「確認済証が交付されているから、適切な設計」と主張することは大きな間違いだ。

 新栄住宅や大分県に問いたいことは、「完了検査において、何を以って建築基準関係規定への適合を確認したのか」ということだ。筆者も完了検査に立ち会ったことは何度もあるが、構造計算書と施工の状況を照合している場面は一度も見たことはない。新栄住宅や大分県が主張していることは、根拠のない出まかせに過ぎない。主張が正しいというのであれば、完了検査において建築基準関係規定への適合を確認した根拠を示すべきだ。それができなければ、設計の偽装を認めたものと判断せざるを得ない。

姉歯事件後の行政主導による検証でも偽装を見逃した!

 姉歯事件の後、主にマンションの構造設計が適正に行われているかについて、行政主導による検証が実施され、適正と判断された建物には適合を証する安全証明が交付された。検証は、行政から(一社)日本建築構造技術者協会(略称:JSCA)に委託された。だが、JSCAは構造設計技術者による民間団体であり、公的機関ではない。
 検証に際して、福岡市などは、管理組合に対し助成金を交付している。建物の規模によりますが、1棟で80万円などという金額が助成されていた。JSCAの会員のなかには「耐震偽装特需」と言って 、嬉々として検証を引き受けていた技術者もいたと聞いている。

 この公金を投入した検証において、今回私が指摘している設計の偽装は完全に見逃されていたのだ。なぜ、JSCAの構造技術者たちが設計の偽装を見逃したのだろうか。それは技術的に未熟で発見できなかったか、もしくは、自らも偽装を行っていたからと推測される。
 前者であれば、技術的レベルが高い技術者は発見できた可能性があるが、実際には、この件を1件も指摘していない。そのため、必然的に後者ということになり、JSCAの構造技術者のほとんどが、故意か否かは別として、設計の偽装を行っていたということになる。それでいて、公金を受け取りながら、いい加減な検証を行っていたのであり、結果的には行政もこれに加担していたことになる。

 ここにも、行政にとって、明らかにされては困る「不都合な真実」があると考えられる。

(つづく)

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