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2020年08月04日 15:30

「新型コロナ」後の世界~大学の本来あるべき姿を考察する!(2)

東京大学大学院情報学環 教授 吉見 俊哉 氏

 新型コロナウイルスは「世界の軌道」を止めた。私たちは今避難を余儀なくされ、物質的な考えを止めさせられ、自分が生きることだけを考えている。そして、このことは、これまで私たちが地球に行ってきた環境破壊がもたらした大洪水、ハリケーン、竜巻、海洋汚染、氷山崩壊などと同じで、貪欲な資源獲得の争いや終わりのない戦争の結果であることに気づき始めている。
 一方で、世界が一度止まったことで、私たちは自分の人生で大切なものは何かを考える時間ができた。今後、大学はどのような役割をはたしていくべきなのだろうか。

 東京大学大学院情報学環・教授の吉見俊哉氏に聞いた。ちょうど新型コロナ騒動直前の1月末に吉見教授がオックスフォード大学教授の苅谷剛彦氏と共著で出版した『大学はもう死んでいる?』(集英社新書)が今注目を集めている。それは、同書がまるで世界が一度止まることを予期していたかのように、日本はのみならず世界中の大学が抱える根本的な問題をあぶり出しているからに他ならない。

グローバリゼーションとパンデミックは、表裏一体

 吉見 重要なのは、新型コロナウイルスのような感染症のパンデミックは、歴史上、今回が初めてではないということです。過去に起こった感染症のパンデミックを、ここで振り返ってみましょう。

(1)インフルエンザ:「スペインかぜ」

 1918年~19年には、俗に「スペインかぜ」と呼ばれるインフルエンザのパンデミックが起こりました。世界ですさまじい程多くの患者数、死亡者数がでて、一説では、推定18億人の世界人口のうち約5億人が感染し、4,000~5,000万人が死亡したとも言われています。日本でも2,300万人の感染者と38万人の死亡者が報告されています(内務省統計)。

 インフルエンザのパンデミックはなぜ、あの時点で起きたのか。それはいうまでもなく、第一次世界大戦があったからです。第一次世界大戦では、アメリカ兵はヨーロッパに進出し、ヨーロッパ兵もヨーロッパ内で激しく動き回りました。そのため、病原菌が易々と国境を越えて運ばれました。このような兵士のグローパルな移動がなければ、大規模なパンデミックにはなっていなかったと考えられます。

(2)コレラ:インドのベンガル地方から大拡散

東京大学大学院情報学環 教授 吉見 俊哉 氏

 1817年には、コレラのパンデミックが起こりました。最初の流行は、コレラ菌に汚染された水が媒介物となってインドのベンガル地方で起こり、やがてヨーロッパから世界に大拡散していきました。

 コレラが広まった背景には、ナポレオン戦争(1799‐1815年:ナポレオン軍のヨーロッパ全域、およびロシアへの進出)やアジアでの大英帝国勢力の拡大がありました。アメリカの独立後、大英帝国は植民地の主力をインドに移しましたが、英印関係の強化により、インドで始まったコレラは、イギリスを経てヨーロッパ全域に広がりました。加えて、時代は近代化に向かうまっただなかで、貿易や移民の拡大、交通手段の発達などが進み、世界各国からインドを訪れた船乗りや商人によって、コレラ菌は世界各地に広まりました。

(3)天然痘:スペイン人が中南米に持ち込む

 16世紀には天然痘のパンデミックが起こりました。スペイン人がわずかな人数で中南米を征服できた理由は、鉄器や火薬をもたない先住民国家であるアステカ帝国、インカ帝国との戦力の差だけではなく、スペイン人が持ち込んだ天然痘ウイルスに抵抗力のなかった先住民の多くが感染し、膨大な死者が出て、国力が低下したためと言われています。まさに「大航海時代」という16世紀のグローバリゼーションがもたらした出来事でした。

(4)ペスト:史上もっとも過酷だった「黒死病」

 人類の歴史のなかでもっとも過酷だったのは、1350年代のペストのパンデミックと言われています。世界全体で7,500万人から2億人もの死者が出て、ヨーロッパだけでも、全人口約8,000万人の4分の1から3分の1に当たる2,500万人が死亡したとされています。

 ペストの感染拡大の1つの要因には、モンゴル帝国にありました。モンゴル帝国は13世紀にユーラシア大陸全域に拡張し、交易がとても活発化しました。モンゴル軍は1346年にクリミア半島の黒海最大の港湾都市を攻撃した際に、ペストに感染したと言われています。13世紀はグローバリゼーションが進み、中国からヨーロッパ全域まで、商人を中心にさまざまな人が自由に行き来するようになりました。ペストはこの巨大なモンゴル帝国の交易網に乗って、拡散されていきました。

 以上のように、グローバリゼーションとパンデミックは表裏一体、つまりグローバリゼーションはパンデミックを生み出すもとになってきたのです。今回の新型コロナのパンデミックのなかで、私たちはソーシャルディスタンスを守り、都市封鎖や感染者の隔離などをせざるを得ない状況に陥っています。しかし、これまで歴史を振り返ると、そもそもグローバリゼーションがもたらしてきたものは、接触、交流、越境、対話などです。人種も民族も文化も違う人たちの社会的距離が密になり過ぎた結果、今回は、それを無理やりに引き剥がそうという反動が起きたわけです。

(つづく)

【金木 亮憲】


<プロフィール>
吉見 俊哉
(よしみ・しゅんや)
 1957年、東京都生まれ。東京大学大学院情報学環教授 兼 東京大学出版会理事長。同大学副学長、大学総合研究センター長などを歴任。社会学、都市論、メディア論、文化研究を主な専門としつつ、日本におけるカルチュラル・スタディーズの発展で中心的な役割をはたす。
 2017年9月~18年6月まで米国ハーバード大学客員教授。著書に『都市のドラマトゥルギー』(河出書房新社)、『博覧会の政治学』(講談社)、『親米と反米』(岩波書店)、『ポスト戦後社会』(岩波書店)、『夢の原子力』(ちくま新書)、『「文系学部廃止」の衝撃』(集英社新書)、『大予言「歴史の尺度」が示す未来』(集英社新書)、『トランプのアメリカに住む』(岩波新書)、『大学はもう死んでいる?』(集英社新書)など多数。

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