2021年12月01日( 水 )
by データ・マックス

「新型コロナ」後の世界~大学の本来あるべき姿を考察する!(8)

東京大学大学院情報学環 教授 吉見 俊哉 氏

 新型コロナウイルスは「世界の軌道」を止めた。私たちは今避難を余儀なくされ、物質的な考えを止めさせられ、自分が生きることだけを考えている。そして、このことは、これまで私たちが地球に行ってきた環境破壊がもたらした大洪水、ハリケーン、竜巻、海洋汚染、氷山崩壊などと同じで、貪欲な資源獲得の争いや終わりのない戦争の結果であることに気づき始めている。
 一方で、世界が一度止まったことで、私たちは自分の人生で大切なものは何かを考える時間ができた。今後、大学はどのような役割をはたしていくべきなのだろうか。

 東京大学大学院情報学環・教授の吉見俊哉氏に聞いた。ちょうど新型コロナ騒動直前の1月末に吉見教授がオックスフォード大学教授の苅谷剛彦氏と共著で出版した『大学はもう死んでいる?』(集英社新書)が今注目を集めている。それは、同書がまるで世界が一度止まることを予期していたかのように、日本はのみならず世界中の大学が抱える根本的な問題をあぶり出しているからに他ならない。

「文系の学問はあまり役に立たない」が本音では?

 吉見 私は『「文系学部廃止」の衝撃』(集英社新書 2016年)のなかでも書きましたが、当時は新聞や雑誌の誌面上に「文系の学問は役に立たない」「文科省は国立大学の文系学部を廃止せよといっている」という記事が躍っていました。これらは誤報に近かったとはいえ、私が気になったのは、多くの有識者を含め国民が文科省をバッシングするなか、本音では「でも、文系の学問はあまり役に立たないのでは?」と感じていることが垣間見えたことです。

 そこで、私は同書のなかで、文理複眼にも通じますが、役に立つことの意味を「直接何かの目的のために役に立つ(手段を提供する)」「そもそもの目的、価値を創造するということで役に立つ」と2つの意味でとらえる必要があると述べました。そして、後者の目的、価値を創造することに対して、人文社会系の学問ほど最適なものはないと主張しました。

 実際、30年、50年も経つと、価値は大きく変わります。その価値の大きな転換を先導するためには、文系を含めた時間軸の違う「2つの刀」が必要なのです。私が「文理融合」ではなく「文理複眼」という言葉を用いるのは、文理が1つに融合して何か新しいものが生まれるというのは間違いであると考えているからです。

日本の大学はいまだに先進国に学ぶ発展途上国の発想

 ――日本の大学もすぐにでも取り組むべきと感じますが、現状はどうですか。

 吉見 残念ながら、ほとんど理解されていません。その理由は、日本では「リベラルアーツ」という考え方そのものが未発達で、政治家、経済人(企業経営者、人事責任者など)などからごく一般人まで、こぞってそれを単なる「教養」としてしか見なしていないからです。日本人の多くは、学問は専門分野を縦割りで掘るものだと考えているのです。

 それには原因があります。19世紀後半に日本で旧帝国大学ができたとき、欧米各国からそれぞれの分野でもっとも進んでいた知を取り入れました。東大などはその典型ですが、医学はドイツ、法学はフランス、工学はスコットランド、農学はアメリカという次第です。それぞれがそれらの知を一生懸命取り入れて、少しでも近づこうとしました。つまり、もっとも効率的に役に立つ知識を寄せ集めて、キャッチアップしようとしたのです。これが日本の大学の学問の明治以来の発達のプロセスであり、要するに、先進国に追いつこうとする発展途上国の知識の仕組みです。

 学問には何か「根っ子」のようなものがあり、それを捉えれば、すべてにつながっていくというのが本来あるべき発想です。しかし、「リベラルアーツ」にも関係することですが、日本ではとても弱いのです。知を細分化して吸収する仕組みを発達させるので、長期の知的想像力が失われます。日本社会は「大学入試」についてはよく理解していますが、その先にある「大学」とは何か、ということについての理解が未成熟なのです。

(つづく)

【金木 亮憲】


<プロフィール>
吉見 俊哉
(よしみ・しゅんや)
 1957年、東京都生まれ。東京大学大学院情報学環教授 兼 東京大学出版会理事長。同大学副学長、大学総合研究センター長などを歴任。社会学、都市論、メディア論、文化研究を主な専門としつつ、日本におけるカルチュラル・スタディーズの発展で中心的な役割をはたす。
 2017年9月~18年6月まで米国ハーバード大学客員教授。著書に『都市のドラマトゥルギー』(河出書房新社)、『博覧会の政治学』(講談社)、『親米と反米』(岩波書店)、『ポスト戦後社会』(岩波書店)、『夢の原子力』(ちくま新書)、『「文系学部廃止」の衝撃』(集英社新書)、『大予言「歴史の尺度」が示す未来』(集英社新書)、『トランプのアメリカに住む』(岩波新書)、『大学はもう死んでいる?』(集英社新書)など多数。

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