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2020年08月18日 07:00

「新型コロナ」後の世界~大学の本来あるべき姿を考察する!(9)

東京大学大学院情報学環 教授 吉見 俊哉 氏

 新型コロナウイルスは「世界の軌道」を止めた。私たちは今避難を余儀なくされ、物質的な考えを止めさせられ、自分が生きることだけを考えている。そして、このことは、これまで私たちが地球に行ってきた環境破壊がもたらした大洪水、ハリケーン、竜巻、海洋汚染、氷山崩壊などと同じで、貪欲な資源獲得の争いや終わりのない戦争の結果であることに気づき始めている。
 一方で、世界が一度止まったことで、私たちは自分の人生で大切なものは何かを考える時間ができた。今後、大学はどのような役割をはたしていくべきなのだろうか。

 東京大学大学院情報学環・教授の吉見俊哉氏に聞いた。ちょうど新型コロナ騒動直前の1月末に吉見教授がオックスフォード大学教授の苅谷剛彦氏と共著で出版した『大学はもう死んでいる?』(集英社新書)が今注目を集めている。それは、同書がまるで世界が一度止まることを予期していたかのように、日本はのみならず世界中の大学が抱える根本的な問題をあぶり出しているからに他ならない。

日本人以外の学生にも通用するロジックで相手に伝える

 ――吉見教授は本書で、「グローバル人材」について触れています。大学におけるグローバル教育については、どう考えていますか。外国人教員比率、英語による授業の比率などは聞こえてきますが、目指している全体イメージが見えません。

 吉見 日本の大学のグローバル化については「外国人教員比率や英語による授業の比率をもっと増やすべきである」という意見から「日本人はもっと日本語で考えることを大切にすべきである」という意見までさまざまな議論があります。私はどちらも貴重な意見と考えています。それは、日本語で考えることはもちろん大切ですが、「日本語だけに閉じこもる」のではなく、英語で考えることも大切だからです。

 私は日本の大学生は英語で考えることができるのは当然で、日本語でも考えることができるという点をアドバンテージにしなければならないと思っています。そのためには、30%くらいの科目が英語で教えられることが理想と考えています。

 なぜならば、以前にお話ししたように、大学を成り立たせている根本原理は「移動の自由」にあるからです。大学のなかでは、先生と学生や、学生同士が英語でコミュニケーションをすることが「日常でない」という空気を一掃すべきだと考えています。もちろん言葉は英語に限らず、中国語、韓国語、ドイツ語、フランス語でもいいのですが、どの国の学生にとってももっともなじみのある言語、世界全域に通用する言語が英語だからです。

 日本語だけではなく「英語で考える、伝えること」には、もう1つの利点があります。授業でもそうですが、日本人学生は比較的狭い視野のなかでやたら綿密に話すので、日本語がかなりできる留学生でも理解できなくなります。これでは国際的には通用しません。このような日本人学生は、自分の殻に閉じこもってしまい、「日本人以外の学生に自分の意見はどう感じられるのか」ということを忘れてしまっているか、もしくは気づいていないのです。

 学問としても、「日本人以外の学生にも通用する議論、ロジックはどのようなものか」を日本人学生は学ぶ必要があります。つまり、異なる言語の他者から見て自分の発話を相対化できないと、グローバル人材としてのみならず、本来は学問上においてもよい点はありません。そのためには、ネイティブ言語である日本語だけではなく、世界全域で通用する英語で、自分の言おうとしていることを論理化し、構造化して相手に伝える訓練をすることはとても重要です。

世界の大学はオンラインが可能であることが証明された

 ――ビフォーコロナとアフターコロナに分けて考えることができるとしたら、アフターコロナで、大学がもっとも大切にしていくべき概念は何であると考えていますか。

 吉見 今回の新型コロナの影響のうち、今後も確実に続くと考えられる変化の1つは、いうまでもなく「大学教育のオンライン化」です。文科省の調査では、現在、日本の大学の90%以上がオンラインを実施しています。2017年の調査では、「オンライン化」を取り入れている大学は30%未満でした。そのことから考えると、現在の状態は「コペルニクス的転回」と言っても過言ではありません。日本の大学も、世界の大学も、革命的変化を起こしています。これは明らかに閾値を超えたものです。しかも今回特筆すべきことは、世界中の大学で同じことが起きている点です。

 しかし、日本の小中高では、同じ現象が起こりませんでした。このことにより、どれだけ追い込まれても、小中高ではオンラインはできないが「大学はオンラインが可能である」ということが証明されました。大学はできるのに今まではやっていなかったということです。

(つづく)

【金木 亮憲】


<プロフィール>
吉見 俊哉
(よしみ・しゅんや)
 1957年、東京都生まれ。東京大学大学院情報学環教授 兼 東京大学出版会理事長。同大学副学長、大学総合研究センター長などを歴任。社会学、都市論、メディア論、文化研究を主な専門としつつ、日本におけるカルチュラル・スタディーズの発展で中心的な役割をはたす。
 2017年9月~18年6月まで米国ハーバード大学客員教授。著書に『都市のドラマトゥルギー』(河出書房新社)、『博覧会の政治学』(講談社)、『親米と反米』(岩波書店)、『ポスト戦後社会』(岩波書店)、『夢の原子力』(ちくま新書)、『「文系学部廃止」の衝撃』(集英社新書)、『大予言「歴史の尺度」が示す未来』(集英社新書)、『トランプのアメリカに住む』(岩波新書)、『大学はもう死んでいる?』(集英社新書)など多数。

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