2022年05月24日( 火 )
by データ・マックス

【株主総会血風録4】東芝~「物いう株主」エフィッシモが改正外為法の審査に真っ向勝負で挑む!(4)

 今年の株主総会で、もっとも関心を集めたのは(株)東芝である。投資ファンド2社が、それぞれ推薦人物の取締役選任を求める株主提案を提出し、会社側と対立した。株主提案はいずれも否決され、会社提案はすべて可決された。もっとも注目されたことは「物いう株主」が、改正外為法の審査において、経済産業省に真っ向勝負を挑んだことだった。

3Dは車谷社長と社外取締役・藤森義明氏との関係を問題視

 エフィッシモを代表する国廣弁護士が標的にしたのは経産省で、車谷氏ではない。車谷社長が恐れていたのは、車谷氏をターゲットにした3Dだった。

 3Dは、ゴールドマン・サックス証券日本法人出身の長谷川寛家氏が、シンガポールで立ち上げたファンド。3Dの投資部門は、全員ゴールドマン・サックス証券出身だ。3Dは、Allen Chu(アラン・チュー)氏と清水雄也氏の2名の社外取締役の選任を求めた。ひびき・パース・アドバイザーズの最高投資責任者である清水氏は、長谷川氏のゴールドマン・サックス証券時代の先輩。チュー氏は、チューダー・キャピタルなどの著名な国際投資機関で20年以上のキャリアを積んだ投資家だ。

 3Dは7月20日、東芝の車谷社長と社外取締役・藤森氏の取締役再任に反対すると発表。3Dの狙いが、車谷氏の解任にあることがはっきりした。

 3Dは、藤森氏が投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズ日本法人の最高顧問、車谷氏が同社の会長兼共同代表だったこともあるため、独立性に疑義があると主張。また、東芝が藤森氏を選任する理由として同氏がM&Aのエキスパートであることを挙げているが、LIXILグループCEO時代に多くのM&Aで失敗しており、その評価は極めて疑わしいと断罪した。

 3Dが車谷社長ら2名の取締役再任に反対したことから、一部の投資家の間では、車谷社長の再任が否決されるシナリオもささやかれていた。

 東芝の株主総会対策のアドバイザーは、ゴールドマン・サックスの投資銀行部門が務めた。ゴールドマン・サックスのOBである3Dが車谷社長の解任を仕掛け、ゴールドマン・サックスの現役組が東芝をサポートしたため、「ゴールドマン・サックス同士の対決」と皮肉られた。

 株主総会では、東芝に順風が吹いた。海外の機関投資家に影響を与える議決権行使助言会社のISSとグラスルイスが株主提案に反対し、会社提案に賛成したためだ。もし反対を推奨していたら、車谷氏の再任の否決も起こり得た。

 コンプライアンス問題に特に厳しい議決権行使会社が、会社提案の賛成をなぜ推奨したのか。勝負を分けたミステリーの謎は、アドバイザーのゴールドマン・サックスが、東芝を代表する車谷社長に切り札を切らせたことにあった。

切り札はキオクシア株の売却による株主還元

 ゴールドマン・サックスはアドバイザーとして、東芝に株主総会を乗り切るために株主への還元策を指南した。

 東芝は6月22日、4割を出資する半導体メモリ大手のキオクシアホールディングス(以下、キオクシア)株を売却する方針を発表した。キオクシアの上場後に段階的に売却し、売却益の過半を株主に還元すると表明したのだ。

 キオクシアは、東芝の半導体メモリ子会社・東芝メモリが前身。米原子力事業の巨額損失で経営危機に陥った東芝は、18年6月に米投資ファンドのベインキャピタルを軸とする日米韓連合に東芝メモリを約2兆円で売却。その後、東芝はキオクシアに3,500億円を投じて議決権ベースで約4割を再出資し、持ち分法適用会社にしていた。

 キオクシア株の売却方針は、株主還元を打ち出して、株主総会で「物いう株主」の支持を取り付ける策であることはいうまでもない。

 キオクシアの主幹事のなかで、ゴールドマン・サックスは、野村證券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券につぐ3番手。同社は、車谷氏の再選を手助けすることで、キオクシア株の売り出しの割り当てで有利に働くと計算していたのだ。

 車谷氏はかろうじて再任にこぎつけことから、さらなる売却に踏み切った。東芝は今年8月4日、ノートパソコンを手がけるダイナブックの株式19.9%をシャープに売却した。

 東芝は1985年に世界で初めてノートパソコンを発売して、一時は世界シェアでトップとなった。だが、経営危機に陥った2018年に、パソコン事業を担う連結子会社をシャープに売却していた。シャープはこれまで80.1%のダイナブック株を取得していたが、今回の追加取得により完全子会社とした。

 車谷社長にとって、再建を資金面で支えた「物いう株主」への株主還元は基本方針である。株主総会での再任に対する棄権率の高さは、まるで「喉元に突き付けられた刃」だ。「株主還元を行わなければ、いつでも反対票を投じて首にできますよ」というメッセージが込められている。

 車谷社長は自分のクビを守るために、東芝の関連会社をどんどん売却している。東芝を、どの分野でメシを喰っていく会社にしようとしているのかが、まったく見えてこない。それが最大の問題だ。車谷社長に「喝」!

(了)

【森村 和男】

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