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2020年08月24日 13:00

【ラスト50kmの攻防】六者合意の「終着」点見えず FGT導入でも溝

「六者合意」にこだわる佐賀県

 整備方式の協議をめぐる佐賀県の抵抗で、武雄温泉―長崎間の開業後が見通せない九州新幹線長崎ルート(博多―長崎間、143km)。まず、2011年3月、山陽新幹線と結ぶ博多駅から九州新幹線鹿児島ルートとの分岐駅までの共用区間(博多―新鳥栖間28km)が開業した。

 22年度に西端の武雄温泉―長崎間66kmが開業すると、長崎ルートの東西両端は標準軌新線を新幹線車両が疾走する。そうなると、両端の接続部分となる新鳥栖―武雄温泉間が、全国の高速鉄道網からスッポリ抜け落ちる。

 この状態が続くと、高速鉄道網は望まれる威力を発揮できず、山陽新幹線や鹿児島ルート、長崎ルートに投じてきた公共事業費が、税金の壮大な“ムダ遣い”と指摘されかねない。わずか50km、されど50km。この区間を高速鉄道でつなぐことは、佐賀県単独の問題ではなく、西日本エリアを新幹線ネットワークで結ぶ国策でもある。

 ところが当事者の佐賀県は、そうなる事態をさほど深刻に考えている風でもない。「私たちの現状認識は『六者合意』の線です。その認識で県庁は上(知事)から下まで意思統一されています」。同県交通政策課の職員はそう話す。

 「六者合意」。与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム検討委員長、国交省鉄道局長、JR九州社長、鉄道・運輸機構理事長、佐賀県知事、長崎県知事の6者が16年3月29日に交わした合意だ。

 当時、鉄道・運輸機構は、電車の車輪の幅を変えて標準軌(博多―新鳥栖間、武雄温泉―長崎間)と狭軌(新鳥栖―武雄温泉間)の双方を走行できるFGT(フリーゲージトレイン)というハイブリット車両の開発を進めていた。

 「6者合意」では、FGТの開発が手間取っているため、工事中の武雄温泉―長崎間は標準軌新線で22年度に予定通り開業。FGТが開発に成功するまでの間は、武雄温泉駅のホームで在来特急と新幹線を乗り換えることにした。

 これにともなって武雄温泉―長崎間の並行在来線、長崎線・肥前山口―諫早間の上下分離(列車はJR九州が運行し、鉄道施設は佐賀県と長崎県が所有する方式)を確認。JR九州は開業後3年間、肥前山口―肥前鹿島間に特急を走らせ、開業後23年間は普通列車を上下分離前と同様の水準で運行すると約束した。

 さらにFGTの開発成功を前提に、新鳥栖駅と武雄温泉駅にアプローチ線(軌間変換線)を整備。肥前山口―武雄温泉間の佐世保線は単線だったため、開業後に複線化工事を順次実施するとした。

FGT導入をめぐり、国と佐賀県に認識のズレ

 しかし肝心のFGT開発は暗雲が立ち込めていた。1998年の1次試験車両製作から改良を重ねた3次試験車両は14年10月、「九州新幹線鹿児島ルート」「軌間変換線(アプローチ線)」「鹿児島線」を使い「3モード耐久走行試験」に入った。

 試験開始からわずか1カ月後、車軸の摩耗がわかって走行試験を中断。6者合意のころは、試験が再開できるか調査中だった。

 その後、一度は試験再開したものの、18年7月、与党検討委員会は長崎ルートへのFGТ導入を断念。代わりに新鳥栖―武雄温泉間は標準軌新線建設か、長崎線を活かす複線3線軌/単線並列(ミニ新幹線)建設かの選択を、国交省、JR九州、佐賀県、長崎県、鉄道・運輸機構に求めた。

 「そのFGT断念の話ですが、もちろん報道では私たちも知っています。ところが、国交省から佐賀県には文書を含めて正式に説明されていません。にわかに信じられないでしょうが、そうなのです。間違いありません」。佐賀県交通政策課の職員は断言する。

 対する国交省幹線鉄道課。「FGTの導入断念は、与党検討委員会の委員長が佐賀県知事にちゃんとお伝えした。佐賀県と事務方の協議でも言及していると認識している。正式に説明しているかどうかは認識の違い。仮に伝わっていないとすれば、改めてご説明する」。そう話す職員は困惑気味だ。

 「水掛け論」に終始しそうだが、与党検討委の断念決定から2年以上の時間が過ぎ、武雄温泉―長崎間の開業まで2年を切った。痺れを切らしたかのように、県議会や商工団体などが佐賀県に対し協議促進を求める声を挙げ始めた。

九州新幹線「武雄温泉―長崎」間の2022年度開業に向けて工事が進む、武雄温泉駅の新幹線側駅舎。
開業後は福岡市や長崎市の通勤・通学圏になることをアピールする看板がかかる=武雄市武雄町昭和

【南里 秀之】

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