2024年04月20日( 土 )

数百年の時間軸で考える河川管理、毎年の維持サイクルこそが重要(前)

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国土交通省 九州地方整備局 筑後川河川事務所
所長 松木 洋忠 氏

長期の時間軸で考える

 ――近年は毎年のように水害が発生していますが、筑後川の整備事業に変更はありますか。

 松木 まず、筑後川の管理を考えるのであれば、現在の状態だけでなく、300年前と比較して考えるべきです。筑後川は江戸時代から、あるいはその前から、先人たちが住みやすいように少しずつつくり変えてきており、私たちは先人の残したものを補修しつつ、少しずつ増築してきたからです。

 私が所長に就任してちょうど1年ですが、すでに記録的な水害に何度も見舞われました。このように、近年は自然災害が多発していますが、1960年から95年(阪神・淡路大震災)までが「空白の35年間」であり、死者をともなう災害が少なかったのは、たまたまだと考えています。伊勢湾台風(1959年)以前は防災インフラが未整備だったということもありますが、35年もの間、大きな災害が発生しなかったのは、奇跡的な幸運だったのです。気候変動によって災害が増えているという見方がされますが、それ以前の「空白の35年間」が幸運であったにすぎません。

 この300年前の話と60年前の話という2つの時間の流れ、地域の連続性のなかで、当事務所は仕事をしています。当事務所の設立から約100年になりますが、今なお筑後川にはわからないことが多く、調査研究が必要です。この100年に何をしてきたのかを冷静に振り返りつつ、次の100年には何が必要かということを念頭に置いて取り組んでいます。

「空白の35年間」(出典:令和2年度防災白書)

令和2年7月豪雨

 ――7月の豪雨についてうかがいます。

 松木 興味深い点は、筑後川流域における浸水域が、いずれも控え堤()がある場所という共通点があることです。江戸時代に築かれた控え堤は、現在は田んぼのなかの道路などとして利用されています。昨今、流しきれない洪水を流域全体で受け止めるという「流域治水」が提唱されていますが、江戸時代は究極的な流域治水を行っていたということです。そのかたちが、今回再現されたともいえます。

 この100年間、当事務所は「川から水をこぼさない」「なるべく早く海に流す」「水位を1cmでも、1時間でも早く下げる」ことを重視してきました。この部分については、江戸時代よりも格段に向上しています。しかし今回のように、施設の能力を超える規模の雨が降ると、筑後川は以前のかたちに戻ります。また、田畑が宅地となるなど土地の用途が変わっているため、経済的被害がより顕著に出たことも特徴的でした。

 今回の豪雨の最大の特徴は、雨量の多さです。私たちは筑後川全体で48時間に521mmという雨量を目安に、洪水対策計画を立てています。しかし、今回の豪雨はそれを大きく上回る降水量(545mm/48時間)となり、堤防の計画高水位には達しなかったものの、過去最高の水位を記録しました。

 今回、3つの驚きがありました。計画降水量を超えたことが最初の驚きです。次に、土構造物というのは未経験の水位に達するとどこかに問題が生じやすいのですが、今回は堤防が壊れなかったことです。最後に、7月7日から8日にかけて豪雨が警戒されるなかで、松原・下筌ダムが洪水のピークをカットして水位を下げてくれたことです。

 過去最高水位でも持ち堪えたのは、先人の工事の品質によるものであり、上流域でピークカットしていなければ、大災害になっていた可能性があります。営々と堤防を築いてきた先人と、あの場所にダムを建設した方々、また、ご協力していただいた方々に感謝しています。

※控え堤
 本堤背後の堤内地に築造される堤防のことで、「二線堤」「二番堤」ともいわれる。万が一、本堤が破堤した場合に洪水氾濫の拡大を防ぎ、被害を最小限にとどめる役割を果たす。 ^

(つづく)

【茅野 雅弘】


<PROFILE>
松木 洋忠
(まつき・ひろただ)
1967年生まれ。北九州市出身。1989年から国土交通省(旧・建設省含む)の本省および各地方整備局(九州、北陸、四国、近畿)で勤務。JICA専門家(ラオス、ベトナム)や遠賀川河川事務所長、国土交通省水管理・国土保全局河川計画課国際室長などを経て、2019年7月に同省九州地方整備局筑後川河川事務所長に就任した。

(後)

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