孫正義氏の究極の選択~ソフトバンクグループの株式の非公開化はあるか?(4)
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投資会社ソフトバンクグループ(株)(SBG)の「株式非公開化」観測が駆けめぐる。株式非公開説は今回が初めてではなく、危機に直面すると噴出してきた。孫正義会長兼社長は2009年と15年にも、株式非公開化を検討した。今年は「3度目の正直」となるか。
孫氏の最大の危機は「軍師官兵衛」の死
「冒険投資家」の孫氏は、どうやってファンドを再生させるのか。1つの選択肢が、今年前半から欧米メディアでたびたび取り沙汰されているMBO(経営陣による買収)による株式非公開化構想だ。孫氏はこれまでにもたびたび、MBOを考えてきた。
13年11月18日、福岡ソフトバンクホークス(株)前社長兼オーナー代行の笠井和彦氏の「お別れ会」がホテルニューオータニで催された。同社のオーナーの孫氏は、弔辞のなかで一時、上場廃止を考えたことを明らかにした。
富士銀行(現・みずほ銀行)副頭取で、「為替の神様」と言われた笠井氏は、孫氏に三顧の礼で招かれた。表には一切出なかったが、孫氏の軍師としてM&Aを仕切った。朝日新聞(13年11月19日付)はこう報じた。
「2008年秋のリーマン・ショックが収まってきたころ。株価の大きな変動を受けて孫社長は笠井氏に『アナリストやジャーナリストへの説明が面倒。いっそ個人で会社を背負おうかと思う』と相談。これに笠井氏は『夢をちっちゃくしていいんですか』と強く反対した。孫社長は、『あの時止めてくれなかったら、その後のスプリント買収も無理だっただろう』と、絞り出すような声で感謝を述べた」
孫氏が上場廃止を考えたのは、08年9月に米投資銀行リーマン・ブラザーズが倒産したリーマン・ショックの直後である。同年8月半ばまで2,000円台で推移していた株価は、10月28日には636円に大暴落した。
金融市場では、あらゆる銀行の融資先への姿勢が厳しくなるとの見方が強まり、借入金の多い会社に危険信号が灯った。その代表格が携帯電話会社ボーダフォン(株)(現・ソフトバンク)の買収で有利子負債が2兆4,949億円(08年9月末)に膨れたソフトバンクだった。
当時、孫氏は「まるで経営が破綻するかのような勘違いを金融市場はしている」と意に介さないそぶりを見せていたが、実際は「株式上場を取りやめようか」と軍師の笠井氏に相談するほど追い詰められていたのである。
「軍師官兵衛」である笠井氏が亡くなったことが、孫氏の最大の危機となった。笠井氏は、「結果を出さないと社会から評価されない」として業績を重視。投資拡大路線に決別、事業をネットと通信に絞り込んだ。
笠井氏の死後、孫氏には「事業家」でなく「投資家」としての顏が強烈に表れてきた。傘下の米通信会社スプリントの株価低迷が顕著になった15年にも株式非公開を議論した。携帯電話事業に興味を失い、非上場化して投資事業に変身することを意図した。このときは海外の出資候補者と協議したが、条件面で折り合いがつかず断念した。
株式非公開化は実現するか
今回の株式非公開化は実現するだろうか。上場企業であれば投資先について株主に説明する必要があり、株価についてもうるさく注文がつく。MBOなどを実施して非上場化すれば、短期的な評価に振り回されることなく投資事業に集中しやすくなる。
「ブライトベート(企業)のほうが経営の自由度はある」として、ことあるごとに非場化を検討してきた。しかし、上場を取りやめれば資金調達を行いにくくなると、社内の反発は強い。時価総額で10兆円を超えるSBG株を買い取る資金も問題だ。株式非公開化の実現可能性には懐疑的な見方がある。
株式非公開化というシークレット情報がマスコミに流出するのは、その計画を阻止するのが狙いとみられ、社内外のコンセンサス(合意)形成の難しさを表している。孫氏に諫言できる「軍師官兵衛」はいない。
(了)
【森村和男】
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