• このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年09月28日 11:38

【ラスト50kmの攻防】武雄温泉―長崎が22年秋開業 整備議論に「総選挙」も影響

「昭和の妄想」批判に「議会軽視」と応酬

 与党の整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(PT) が24日開かれ、国交省は2012年6月に着工した九州新幹線長崎ルート・武雄温泉―長崎間が22年秋に開業すると報告した。

 8日開会した9月定例佐賀県議会では、山口祥義知事が新鳥栖―武雄温泉間の環境アセスメントへの同意を拒み続けていた。国交省は、来年度予算案にアセス費用を概算要求しないと表明し、長崎、北陸、北海道3線の20年度建設費からの増額を与党PTに要望した。増額分は金額未定の「事項要求」。佐賀県がアセスに同意すれば費用を捻出できる。

 山口知事が年末までにアセスに同意するかは置いて、武雄温泉―長崎間は2年後、JR佐世保線武雄温泉駅のホームで特急と新幹線を乗り換える「リレー方式」で開業する。

 “先輩”の鹿児島ルートも、新八代―鹿児島中央間が04年3月に先行開業。11年3月の博多―鹿児島中央間の全線開業まで、新八代駅ホームでのリレーだった。乗り換え解消を訴える旅客の声が全線フル規格化を後押ししたが、それでもリレーは7年間続いた。

 長崎ルートの利用客は、博多や新鳥栖で在来線に乗り換え、武雄温泉駅ホームで新幹線車両に移動。その後20分程度で長崎に到着する。新八代と異なるのは、武雄温泉は2度目の乗換駅になり、「快適な旅」の不快要因になりかねない。

 この点も考慮して、与党の整備新幹線検討委は乗換不要のミニ新幹線かフル規格新幹線を選択肢とし、昨年8月には「フル規格が妥当」と結論。国交省に対し佐賀県、長崎県、JR九州と協議を急ぐよう指示した。

 それから1年以上経った。一歩も譲らない山口知事に対し、18年12月の前回知事選で推薦した自民党佐賀県連は17日、国交省が提案する複数の整備方式に対応する環境アセスへの同意を初めて要請した。

 県議会開会中、『日経ビジネス』が配信したネット記事で山口知事は、「新幹線を引いたら街が良くなるなんていうのは昭和の妄想」とこき下ろしていた。一般質問に立った木原奉文氏(自民)は、「議会の質問も始まっていないのに、こういうことを平気で言う。あまりに議会軽視」と記事を読み上げて追及した。

 ただ、県連の要請文は「県民が幅広く議論できるよう、環境アセスメントの実施に同意し、複数の整備方式のメリット、デメリットなどを協議し、県の方向性を見出すよう要請する」と穏やかだ。県連の留守茂幸会長(県議)によると、在来線の上下分離が決まっている沿線市町が選挙区の県議や在来線協議が浮上する可能性がある駅舎所在地の町議らも役員におり、11人全員の同意を最優先した結果という。

 背景にあるのは近づく総選挙。自民党は、17年10月の前回総選挙で佐賀県の衆院小選挙区を2議席とも落とした。安倍晋三前首相の後継総裁選挙で、党中央に先駆けて党員・党友の予備選実施を公表したのも、「党員の意見を広く反映させ、総選挙で頑張ってもらう」(留守会長)との判断からだった。

 山口知事は17日、県庁で留守会長から手渡された要請文に目を落としながら、「佐賀県と県民の今と将来を考えて対応していきたい」と手短に述べ、アセスメントの同意には触れなかった。要請文を下敷きにして、県議会の自民党会派は公明党や民主党系会派などと共同で9月定例会閉会日の30日、山口知事に国交省との積極協議を求める決議を採択し議会の意思を伝える。

動き出したJR九州 協議の場を模索

 その一方で「22年秋開業」が見通せたことで、協議の舞台に上がりそうなのがJR九州。同社の青柳俊彦社長は24日の記者会見で、「最終目標からすると道半ば。(新鳥栖―武雄温泉間)着工に向けて、国や佐賀県とぜひ協議したい」と表明。古宮洋二専務は23日の長崎市での講演会後、「私たちも佐賀県との協議の場をもてないかアプローチしている」と明かした。

 新幹線の新規着工と並行在来線の経営分離は表裏の関係だ。JR九州が国交省も入った協議に参加すれば、新鳥栖―武雄温泉間のフル規格整備を想定し、佐賀県は並行在来線の認定とその取扱いを先行協議できる可能性が浮かぶ。

 「やっとJRが動く。次はフル規格で建設した際の佐賀県の財政負担をどこまで軽くできるか。制度改正で対応できればいいのだが」。そう話す自民党政調会長代理の今村雅弘衆院議員は、県連役員と官邸や党役員との会談日程の調整を急ぐ。

 年末の来年度予算案編成まで3カ月弱。与党の整備新幹線建設推進PTの座長は自民党の岸田文雄・前政調会長から細田博之・元幹事長に交代。初会合の後、細田座長は「全線開業できる状況になっていない」と指摘したうえで、「国交省と佐賀県の協議が続いており、その協議を待ちたい」と静観する構えだったという。

22年秋の九州新幹線・長崎ルート武雄温泉―長崎間の開業後、
JR佐世保線・武雄温泉駅は長崎市方面と佐世保市方面のターミナル駅になる。
新幹線を使うと長崎市まで最速20分程度。
長崎経済圏の影響が大きくなりそうだ=佐賀県武雄市武雄町の武雄温泉駅在来線側

【南里 秀之】

▼関連リンク
【ラスト50kmの攻防(1)】長崎新幹線〈新鳥栖―武雄温泉〉の周辺を探る
【ラスト50kmの攻防(2)】〈長崎ルート〉は停滞、描けないまちづくり
【ラスト50kmの攻防(3)】国は「決められないなら後回し」 佐賀県と溝
【ラスト50kmの攻防(4)】「武雄温泉-長崎」開業は22年度 焦り隠せぬ検討委
【ラスト50kmの攻防(5)】六者合意の「終着」点見えず FGT導入でも溝
【ラスト50kmの攻防(6)】活発化する長崎県の動き 佐賀県知事は「不快」感あらわ
【ラスト50kmの攻防(7)】佐賀県議会・新幹線対策特別委始まる 国交省鉄道局次長などを参考人招致
【ラスト50kmの攻防(8)】「これ以上はFGT開発に予算と時間を割けない」 FGT断念、国交省ひたすら陳謝
【ラスト50kmの攻防(9)】国体は良くて、「新幹線はダメ」の根拠は? 「佐賀国体」会場に540億円
【ラスト50kmの攻防(10)】新旧知事の”判断”  山口知事は地域の〈光と影〉を懸念
【ラスト50kmの攻防(11)】〈広報〉と〈情報公開〉 突然“消えた”データ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

     

トップニュース

2020年10月24日 07:00

構造スリットの第一人者・都甲栄充氏が来福~構造設計一級建築士・仲盛昭二氏とベルヴィ香椎の施工不具合問題を対談(4)

 「築後10年といえば、マンションはほとんど劣化しておらず、構造スリットの不具合という重大な瑕疵が隠れているとは誰も考えないでしょう。しかし、外観がきれいであっても、...

2020年10月24日 07:00

イズミ8月中間決算、経費減で経常17.5%増を確保 売上は11.8%減

 イズミの8月中間連結決算は、営業収益が前年同期比11.8%の減収であっだが、粗利益率の改善と販管費削減で経常利益は17.5%の増益を確保した...

2020年10月23日 18:30

第一生命が詐欺容疑で『実録 頭取交替』登場の元社員を刑事告発 (20) 甲羅万蔵とは

 『実録 頭取交替』で維新銀行を舞台に登場する主人公の甲羅万蔵について触れる。【表1】、【表2】を見ていただきたい。甲羅のモデル・田中耕三・山口銀行特別社友に関する資料だ。

2020年10月23日 18:09

ストラテジーブレティン(263)~コロナパンデミックの経済史的考察(1)

 100年に一度の金融危機(グリーンスパン元FRB議長)と評されたリーマン・ショックは、その後の順調な回復を振り返れば、大げさすぎた表現であった。しかし今進行している...

2020年10月23日 17:30

『脊振の自然に魅せられて』レスキューポイント設置に向けて(4)

 プレートには、「早良区役所」「脊振の自然を愛する会」のロゴを入れるようドコモから指示があり、あわせてドコモのロゴと「ドコモの携帯電話がご利用できます」との文字を表示...

2020年10月23日 16:55

国際金融誘致へ~福岡市が国際金融に特化したワンストップサポート窓口「Global Finance Centre」を開設

 20日、福岡市は国際金融に特化したワンストップサポート窓口「Global Finance Centre」を開設した...

2020年10月23日 16:41

福岡商工会議所 次期副会頭に西日本FHの谷川社長ら

 福岡商工会議所の役員が11月に任期満了と迎えるが、次期副会頭に西日本フィナンシャルホールディングスの谷川浩道代表取締役社長らが就任する予定であることがわかった...

2020年10月23日 16:34

音楽に見る日本人の正体(3)総集編(後)

 マスコミそのものが筆者身近な読者同様、「敵性音楽の使用」に関心がないのかもしれない。そのように考えてみると、戦後この問題に触れたのは、管見の限りでは長田暁二氏(大衆...

2020年10月23日 15:49

P&G、イオンなどが米テラサイクルの容器再利用「Loop」を導入~「使い捨てプラ容器のほうが低コスト」という常識に挑戦(前)

 米リサイクルベンチャーのテラサイクルジャパン(合)は来年3月、イオンやP&G、味の素、キリンビール、大塚製薬などが参加する容器再利用、リサイクルのショッピングシステ...

2020年10月23日 15:00

厚生労働省公表の「ブラック企業」 9月30日発表 九州地区(福岡を除く)

 20年9月30日に公表(20年8月31日更新分)された福岡を除く九州地区分は下記の通り...

pagetop