2024年04月18日( 木 )

唐戸商店街と学生が連携する地域事業~教育を通じた「まちづくり」(後)

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下関市立大学 教授 難波 利光 氏

疲弊する商店街が抱える大きな課題(つづき)

 ――そのスパイスの役割という意味では、「クリエイティブ・ボランティア」という言葉を使われています。

 難波 この「クリエイティブ・ボランティア」という言葉は私の造語なのですが、地域の方々が提案・注文してきた内容を、“アレンジして”返答するように伝えています。一般的に中高生が行うボランティア活動は、オーダーを着実にこなすことが求められるものが多いと思います。

イメージキャラクターの
「カラトン」

 大学生は、学内で学んだ専門的な知識やアルバイトなどで積んだ社会経験、旅行など、中高生に比べて視野は広がっているはずですから、KF Projectではそれを生かして、地域のオーダーに対して学生目線の創造性を付加したボランティア活動を行うことを心がけています。ですから、その意識の浸透により、開始から10年もの間、毎年異なった活動が続けられているのかなと思います。

 唐戸に限らず全国的にローカルの商店街は、人口減少にともない将来的に衰退する傾向にあると思われます。私は、経済や福祉の観点から全国47都道府県を調査したなかで重要だと思ったのは、近くに大学などの教育施設があることは、とても大きなキラーコンテンツだということです。
 下関市には学生が3,000人近くはいますが、もしこの学生がいなくなれば、地域経済にとって大きなダメージになるでしょう。本学ではほとんどが県外出身の学生ですし、ある意味で“外貨”を落としているわけですが、学生にとっては地域を学びの場としながら、マーケットリサーチの場として捉えることが重要です。

 地域の方々は、こうした学生の地域活動で若い人たちが入ると、何か良いアイデアをもらえるのではないかと思われるのですが、ほとんどの学生は最初から良いアイデアをもってはいません。地域の方が教えながら学生が学ぶなかで、アイデアを創出していくという方法が、うまく連携できるのではないかと考えています。

本当の意味での地域内の連携が必須

 ――地域という観点で、下関の現状と今後についてのご意見をお聞かせください。

 難波 下関は、観光や商品のコンテンツが非常に多いまちです。しかし一方で、コンテンツが多すぎるあまりに「あれも」「これも」で魅力が散漫し、結果的に中途半端な訴求になってしまっている気がしています。良いコンテンツはもっているのに伸びにくい―下関はそうした地域環境にあるのかなと思います。
 何か1つの産業などに絞って訴求すれば、ほかのコンテンツに関係する地元企業などに支障が出てしまいます。そのバランスを取るのは非常に難しく、そこをどうするかは行政が取りまとめながら、産業・観光施策を考えることも必要ではないでしょうか。

 経済として規模を広げるには、本当の意味での地域内の連携が必須です。商店街のあるべき姿は、業種を問わずにそれぞれの商店がお互いに助け合いながら、地域を繁栄させていくというものです。時代や価値観、生活様式の変化もありますが、変わらないのは、まちづくりは人が行うということです。

 学生には、卒業して企業務めなどで大企業の論理や地域社会の問題を理解した後に、ソーシャルビジネスで起業していってもらいたいなという希望があります。KF Projectの経験は、学生にとってすぐに役に立つことではありません。社会人として何年か経過し、これからの人生を考えがちな30代くらいになってから、この経験がフィードバックされるのかなと思います。彼らには、さまざまな社会資源を結びつけ、新たな価値の創造をするための地域の潤滑油になってほしいと思います。

(了)

【小山 仁】


<PROFILE>
難波  利光
(なんば・としみつ)
 1968年岡山市出身。北九州市立大学社会システム研究科博士後期課程修了、学術博士。財政学、社会福祉学を専門に下関市立大学経済学部教授・大学院経済学研究科長を務めるほか、中四国商経学会会長、(一社)九州経済連合会行財政委員会企画部会委員、(協)唐戸商店会員外理事、(一財)山口老年総合研究所理事、下関市山の田地区まちづくり協議会支えあいプロジェクト部門顧問、岡山後楽館高校地域協働学校運営協議会委員、大分県中津市商店街活性化とまちづくりに向けた大学連携事業のためのアドバイザーなどの肩書をもつ。

(中)

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