下水道スタートアップチャレンジ開催“スマートシティにらむも実現は遠い?”(後)
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下水のウイルス濃度を監視
いよいよ下水道もAIで管理する技術が開発されようとしているのかと思ったが、いろいろ話を聞いていると、システム全体ではなく、もっと枝葉末節の部分でのICT化、デジタル化の適用可能性に関する話だとわかって、かなりトーンダウンした。それはともかく、枝葉末節であっても、下水道にICT化の余地があるとすれば、どの部分だろうか、と気を取り直して話を聞き続けた。
会合で発見したのは、下水道管渠を流れる汚水に対するアプローチだった。下水道と聞くと、一般的には、生活排水などの汚水が流れているイメージしかないかもしれないが、汚水には、都市で生活する住民に関する重要な情報を含む物質も含まれている。このなかの特定の物質をモニタリングすることで、付加価値を生み出そうという取り組みが紹介された。
宮城県仙台市では、東北大学や山形大学などと共同で、下水に含まれるノロウイルスをモニタリングする実証実験を実施。取得したデータを基に、濃度などに関するアラート発信を行っている。現在、新型コロナウイルスへの適用も進めているという。この監視システムが実用化されれば、ウイルスの発生源やクラスターの特定がより容易にできる可能性がある。濃度によっては、違法薬物の検出などにも適用できる可能性があるようだ。
ただ、下水道から得られるデータを活用する場合にも、個人情報をどう保護するかは大きな課題になる。下水道のビッグデータ化が実現すれば、たとえば「下水道をいつ使用したか」などの生活パターンも丸裸になってしまう可能性がある。外部に漏れないとしても、自分の生活パターンを監視されていること自体、気持ちが悪いという人もいるだろう。これは下水道というより、スマートシティ(スーパーシティ)が抱える本質的な課題だ。
いまだ紙ベースの下水道台帳
会合終了後、国土交通省の担当者は「(下水道の)ビッグデータ活用、オープンデータ化に向けたルール、基準はまだない。これからの課題」「下水道台帳の電子化、標準化に動き出したところ」などと話した。下水道台帳とは、下水道管の埋設状況などを記した図面のことだが、逆にいえば、全国の下水道事業者(自治体)が管理する下水道台帳が、いまだ紙ベースで管理されていることを意味する。
紙ベースの図面しかないのに(図面すらない自治体もあるようだが)、IoTだのAIだのクラウドだのと語るのは、風呂敷を広げるにもほどがあると言わざるを得ない。台帳のデジタル化は、下水道ICT化の大前提だ。「下水道スタートアップチャレンジ」と勇ましい会合名がついているが、マッチングはおろか、「シーズ探し」ですら五里霧中なのが実態のようだ。
次回のテーマは、「下水道を活用したサーキュラー・エコノミー」の予定だ。バイオガスや熱などの「下水道資源を用いて何が生産できるか?」について、議論を重ねるらしい。次回の議論では、もっと現実味のある議論を期待したい。
(了)
【大石 恭正】
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