2024年04月27日( 土 )

地域包括ケアシステムと日本型CCRC

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NPO法人高齢者健康コミュニティ

 現在、我が国は少子高齢化と年金・医療・介護などの社会保障費急増の財源問題を背景に、とくに75歳以上の後期高齢者への医療的管理と介護サービスの複合したニーズへの対応が重要な課題となってきています。このような変化を予測して、2005年から団塊の世代が75歳以上となる2025年をメドに、地域の実情に応じて高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けられる「地域包括ケアシステム」の実現を目指しています。そのイメージを【図1】に示します。

【図1】地域包括ケアシステムのイメージ図

 我が国では、その実現に15年以上取り組んでいますが、現場レベルにおける地域包括ケアシステムは構築されているとは言い難い状況です。加齢に応じて変化するニーズに対応できるサービスが地域で提供されていないために、住み慣れた環境で最期まで生活することができず、多くの高齢者は介護施設や医療機関への入所・入院を経て、最終的には病院で亡くなるのが一般的です。

 このような状況になった理由としては、主要な原因が3つあると考えられます。まず、地方公共団体、医療機関、介護事業会社などのサービス提供者を含め、国民全体に地域包括ケアシステムの理解および認識の共有化ができていないことです。次に、地域包括ケアシステムは、市町村の中学校区を対象エリア(日常生活圏域と呼ぶ)として実現していく方針です。

 しかし、日常生活圏域にはさまざまな医療機関、介護サービス事業者などがあり、それらを調整・統合していかなければならないのですが、誰がリーダーシップをとってサービスを調整・統合していくのかが、不明確なことです。3つ目には、その実現のための具体的かつ実践的な事業モデルが確立されていないことです。

 私どもは、米国の「CCRC」が地域包括ケアシステムを推進していく参考モデルになると考え、研究を重ねてまいりました。CCRCとは「Continuing Care Retirement Community」の頭文字をとったもので、体力や記憶力が衰えていく高齢者に対し、同じ敷地内で最後まで継続したケアを提供できる総合施設のことです。米国にはおよそ2,000カ所のCCRCがあり、約80万人の高齢者がそこで暮らしていると言われています。

 CCRCの定義は「加齢とともに変化するニーズに応じて住宅、食事、ヘルスケア(予防・医療・介護)、社会活動を提供し、同じ場所で最期まで暮らせる総合施設」であり、その目指すところはまさに地域包括ケアシステムと同じです。私がCCRCと出会ったのは、28年前に企業派遣としてペンシルベニア大学ビジネススクールに留学し、アメリカの優れた高齢者ケアシステムを研究しているときのことで、研究を開始したのは、【図2】のエリクソンCCRCに出会ってからです。

【図2】

 エリクソンCCRCは、廃校になった大学を改修および新築しながら、10年をかけてつくり上げたもので、入居者は最期まで安心して暮らせるよう、住まい・食事・医療・予防・生活援助・生きがい・社会活動サービス、そして介護看護・終末ケアがCCRC内で提供されるというものです。今思えば、我が国が目指す地域包括ケアシステムができ上がっていました。

 ただし、我が国と米国とでは、風土・文化・制度が大きく異なり、米国のCCRCの仕組みをそのまま日本に持ち込むことはできません。私どもは我が国の現状を踏まえて、地域包括ケアシステムを実現していくモデルとして“日本型CCRC”を、「生活支援・健康支援・介護・医療サービスを提供する複合施設と自立型、支援型、介護型高齢者住宅および高齢者自宅をネットワークで結び、地域包括ケアシステムの機能を満たす“コミュニティ”」と定義し、提唱してきました。

 日本型CCRCの拠点となる複合施設を例に挙げると、(医)玉昌会(鹿児島県姶良市)や(医)竜門堂(佐賀県武雄市)などでコンサルティングに携わってきました。また、福岡市内をはじめ、計画中のものもいくつかあります。今後はこれらの複合施設を拠点として、健康型高齢者住宅の開発や、日常生活圏域に24時間体制の医療・介護サービス、および予防、生活支援サービスを提供し、地域包括ケアシステムを実現していく計画です(【図3】参照)。

【図3】日本型CCRCを拠点とした地域包括ケアシステムの構築方法

 とくに健康型高齢者住宅の開発は、これから予防・未病対策が重視されていくなかで、重要なサービスになります。たとえば前述のエリクソンCCRCのように、我が国では統廃合の結果、廃校となった小中学校が多く、これらを再開発して日本型CCRCをつくり上げるのはどうでしょうか。新しいまちづくりの市場になってくるのではないかと考えます。このように日本型CCRCは、新しいまちづくりといえる地域包括ケアシステムを実現していくうえで、実践的な事業モデルだと考えます。


<プロフィール>
窪田 昌行
(くぼた・まさゆき)
鹿児島出身。1981年、九州大学工学部大学院修了(工学修士)、93年、ペンシルベニア大学ウォートンスクール終了(MBA)、2000年に岡山大学医学部(医学博士)。建設会社の病院企画・計画担当、経営コンサルタントを経て、06年に産学連携で医療福祉経営マーケティング研究会を設立。14年に日本型CCRCの理念・仕組みの普及と人材育成の場の構築のためにNPO法人高齢者健康コミュニティを設立し、事務局長を務めている。

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