2024年04月20日( 土 )

国交省担当者に聞くなぜ今、「流域治水」なのか?(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
国土交通省水管理・国土保全局
治水課流域減災推進室長 吉岡 大藏 氏

 国土交通省は今年7月、気候変動にともなう降雨量の増大を踏まえた防災・減災プロジェクトの一環として、河川管理者(国土交通省、都道府県など)だけでなく、流域全体で治水に取り組むことを目指した「流域治水プロジェクト」を始動した。同プロジェクト推進には、農林水産省など16の関係省庁が連携。行政の縦割りを排し、政府一丸で取り組む姿勢を見せている。今なぜ、流域治水なのか。流域治水によって何がどう変わるのか。全国のプロジェクトを総括する国土交通省水管理・国土保全局治水課の吉岡大藏・流域減災推進室長に話を聞いた。

河川対策とのトレードオフではない

 ――流域治水を実現するためには、流域住民の治水に対する正しい理解が前提条件になると思われます。流域治水に関する広報について、どういう作戦をお考えですか?

 吉岡 流域治水を実現するためには、民間企業や住民の方などの参加者を増やさなければなりません。たとえば、住家ごとに「浸透ます」を設置して雨水を貯める「各戸貯留」という取り組みがありますが、これを流域全体で普及させるためには、1人ひとりの方に流域治水についてご理解いただき、ご協力いただく必要があります。広報については、まだまだ初期の段階だと思っています。国土交通省のHPをはじめ、関係省庁や自治体などのご協力も得ながら、アピールしているところです。

 プレーヤーを増やすためには、「流域治水とは何なのか」「どういった取り組みが流域治水なのか」ということを、我々がしっかりと説明して、国民の皆さまに具体的なイメージをもってもらわないといけないと感じています。

 ――「流域治水をやるなら、従来の河川対策は必要ない」と考える国民も出てきそうですが・・・。

 吉岡 ここでも重要になってくるのは、「全員野球」です。河川対策と流域対策は、決してトレードオフの関係ではありません。流域対策をやれば、河川対策はいらないというものではないということです。洪水発生の危険度が全国的に高まっている状況のなか、全員野球で取り組まなければ、1人ひとりの命を守れないという時代に直面しています。まずは、全員がこの共通認識を持つ必要があります。

 そのうえで、河川対策は、どんどん前に進めていかなければなりません。ただ、河川対策だけでは対応しきれない部分もあります。そこで、企業や住民の方々の協力を得ながら、流域対策も加速させていかなければなりません。それでも足りない場合のために、避難などのソフト対策を充実させて、補っていく必要があります。全員野球で、すべての対策を同時並行的に進めていく。「あれか、これか」ではなく、「あれも、これも」が流域治水という政策の本質です。

流域治水のイメージ(国土交通省資料より)

 ――最後に抱負をお願いします。

 吉岡 1人でも多くの国民の命、財産を守るため、政策を総動員して取り組まなければならないと思っています。流域治水プロジェクトは、治水のためだけのプロジェクトではありません。水災害のリスクが軽減され、人々の生活や生業が安定することは、地域の活性化、地方創生にもつながると考えています。流域治水プロジェクトをそこまで高めていきたいと思っています。

(了)

【大石 恭正】

(中)

関連記事