2024年04月19日( 金 )

国交省担当者に聞くなぜ今、「流域治水」なのか?(中)

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国土交通省水管理・国土保全局
治水課流域減災推進室長 吉岡 大藏 氏

 国土交通省は今年7月、気候変動にともなう降雨量の増大を踏まえた防災・減災プロジェクトの一環として、河川管理者(国土交通省、都道府県など)だけでなく、流域全体で治水に取り組むことを目指した「流域治水プロジェクト」を始動した。同プロジェクト推進には、農林水産省など16の関係省庁が連携。行政の縦割りを排し、政府一丸で取り組む姿勢を見せている。今なぜ、流域治水なのか。流域治水によって何がどう変わるのか。全国のプロジェクトを総括する国土交通省水管理・国土保全局治水課の吉岡大藏・流域減災推進室長に話を聞いた。

新たな住宅の開発規制も

 ――流域治水プロジェクトのスケジュール感はどうなっていますか。

 吉岡 流域治水には、ハード整備からソフト施策まで、短期・中期・長期といったさまざまな取り組みがあります。すべての取り組みの完了には、やはり10~20年の時間がかかると思いますが、短期間でできるものもあります。できるところからスピード感をもって取り組んでいくことが肝要だと考えています。そのためにも、やはり「全員野球」「できるところからみんなでやっていく」ことが重要になると考えています。

 ハード面ではたとえば、新たに遊水地をつくるとなると、それなりの時間を要しますが、利水ダムの活用など、比較的短期間で実行できる取り組みもあります。ソフト面では土地利用の規制・誘導があります。家屋の移転まで含めると、たしかに時間がかかると思います。ただ、過去に何度も浸水した地区に新たな住宅を建てないように規制するといった施策は、合意形成にそれほどの時間を要しないだろうと考えています。

 ――川沿いの市街地にある家屋を移転する場合もあるのでしょうか。

 吉岡 河川ごとに浸水想定区域が公表されており、これを基に、各市町村は浸水ハザードマップを策定しています。これらに基づき、浸水が想定される場所を、市街化調整区域に指定する取り組みは、従前から実施されてきたところです。また、浸水が頻発するような地区では、家屋を移転する取り組みも進めています。

 ただ、浸水リスクのあるところに住宅を一切建てないようにすると、私たちの住むところが足りなくなってしまいます。河川対策をしっかり講じたうえで、市街地として存続させていくところもあると考えています。ただし、今後の気候変動にともなう降雨量の増加を考えた場合、これまでの河川対策でどこまで補いきれるか、というのはこれからの課題です。

プロジェクト取りまとめ後も適宜バージョンアップ

 ――全国的な協議の進捗状況はどうなっていますか?

吉岡 大藏 氏

 吉岡 11月時点で、全国に109あるすべての一級河川の水系において、計118の協議会が立ち上がり、議論が行われています。協議会は、基本的に水系ごとに1つ設置することになっていますが、利根川などの大きな水系では、複数の協議会が設置されています。

 国土交通省が直轄で管理する河川の治水対策については、すでに協議会の進捗が具体的に明示されています。都道府県が管理する本川の中上流部や支川の対策、下水道による内水対策や、農業関係などほかの参加者による流域対策、避難対策などのソフト対策についても、順次、具体的に提示されていく見通しです。

 これらの対策を各協議会で議論していただき、今年度末までにそれぞれの流域治水プロジェクトを取りまとめることを目標にしています。新たなプレーヤーの参加など、状況の変化に応じて、随時更新し、バージョンアップしていくこととしています。そういう意味では、流域治水プロジェクトの「ボリューム1」という位置づけになるかと思います。

(つづく)

【大石 恭正】

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