2024年03月29日( 金 )

国交省担当者に聞くなぜ今、「流域治水」なのか?(前)

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国土交通省水管理・国土保全局
治水課流域減災推進室長 吉岡 大藏 氏

 国土交通省は今年7月、気候変動にともなう降雨量の増大を踏まえた防災・減災プロジェクトの一環として、河川管理者(国土交通省、都道府県など)だけでなく、流域全体で治水に取り組むことを目指した「流域治水プロジェクト」を始動した。同プロジェクト推進には、農林水産省など16の関係省庁が連携。行政の縦割りを排し、政府一丸で取り組む姿勢を見せている。今なぜ、流域治水なのか。流域治水によって何がどう変わるのか。全国のプロジェクトを総括する国土交通省水管理・国土保全局治水課の吉岡大藏・流域減災推進室長に話を聞いた。

流域治水は「全員野球」

 ――流域治水プロジェクトの資料を見ると、「流域治水への転換」という言葉が使われています。具体的に何を転換するのでしょうか。

吉岡 大藏 氏

 吉岡 近年、国内では豪雨災害が続いています。「平成30年7月豪雨」「令和元年東日本台風」、そして「令和2年7月豪雨」と毎年のようにこれまでの記録を上回るレベルの豪雨災害が発生しています。この背景には、世界的な気候変動の影響があるといわれており、今後、この影響はさらに顕著になると予想されています。日本では今後、降雨量は増えるし、洪水が発生する頻度も増えると予想されているわけです。

 国土交通省としても、これまでの治水計画の変更を含め、新たな施策を早急に講じる必要があると認識しています。これまでは河川管理者が中心となって、堤防や遊水地の整備などの治水対策を講じてきましたが、それだけでは追いつかなくなっています。河川管理者による事前防災を加速化させることに加え、流域のあらゆる関係者に参画していただき、流域全体として治水対策を講じる――。ここが、「流域治水への転換」の核心です。平たくいえば「全員野球」ということですね。

 ――「全員野球での治水対策」への転換ですか。

 吉岡 そうです。「二兎追うものは一兎をも得ず」という言葉がありますが、河川管理者だけでなく、全員参画の流域治水を通して、河川対策、流域対策、被害軽減対策という三兎を得ようとしています。「全員で追えば、三兎をも得られる」という考え方で取り組んでいるわけです。

 具体的には、山地部の集水域では水を溜めるという取り組みを加速させていきます。降った雨をできるだけ溜めて、河川に一気に流れ込まないようにする。新たなダム建設・再生のほか、既存の発電用、農業用利水ダムを洪水調節に活用するなどの方法が考えられます。河川に流れ込む水については、上下流のバランスを考慮しながら、本川と支川を一体的に捉えて対策を講じることが1つのポイントになります。たとえば、上流部の支川の流域に遊水地や貯留施設をつくり、水を溜めることで下流の本川流量の負荷を減らすことなどが考えられます。その際、田んぼやため池などを活用することも有効です。

 氾濫域では、洪水リスクの高い場所から、被害対象となる家屋などをできるだけ減らす対策が考えられます。そのためには、まちづくりや土地利用施策と連動して、危ない場所にはなるべく人が住まないように誘導していく必要があります。洪水リスクの高い場所における開発抑制や、家屋の移転のほか、いわゆる「コンパクトシティ」を進めていく際には、安全な場所に都市機能を集約するよう区域指定などで誘導していくことがポイントになります。

流域の全員がプレーヤー

 ――他省庁との連携はいかがですか。

 吉岡 10月28日に、関係省庁が垣根を越えて流域治水を推進していくため、実務者会議を立ち上げました。菅総理も「行政の縦割り打破」とおっしゃっていますが、まさに政府を挙げて、流域治水を進めていくことにしています。

 たとえば、農林水産省とは、田んぼダムやため池の活用、森林保全などについて連携を深めているところです。「令和2年7月豪雨」では、熊本県球磨村の高齢者福祉施設で被害が発生しましたが、厚生労働省とはこのような福祉施設の避難対策などについて、検討会を立ち上げて議論をしているところです。

 ――各流域での連携、議論はどうなっていますか。

 吉岡 今後は各流域の現場レベルで、具体的なプロジェクトなどに落とし込んでいくことが重要になってきます。現場レベルで連携を進めるため、各水系単位で流域治水協議会を設置しています。国土交通省の河川事務所が中心となって、都道府県、市町村、他省庁の出先機関などにも参加していただいています。この協議会では、流域治水のために「どの地域」「どの地区で」「何をするか」といった、具体的な事業や施策をご検討いただいているところです。

 ――各協議会をベースに、企業や住民などが参加するということですか。

 吉岡 あらゆる自治体、企業、住民の皆さまに流域治水プロジェクトに主体的にご参画いただきたいと思っています。各協議会で議論していただいたプロジェクトに、できるだけ多くのプレーヤーの方々に参加していただくことを期待しているところです。

 ――どのようなプレーヤーの参加を想定されていますか。

 吉岡 たとえば、田んぼダムを進める際には、地方農政局、都道府県の農林部局などを通じて、土地改良区など、農業関係の方々にご協力をお願いすることになります。工場やビルなどを所有している企業などに対して、貯留施設設置などのご協力をお願いすることもあり得ます。こうした民間企業や地域住民の方々に協働をお願いするため、補助制度や税制面の支援メニューなど、新たな予算・制度についても来年度から導入する予定です。

(つづく)

【大石 恭正】

(中)

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