2024年05月04日( 土 )

【流域治水を考える】川辺川ダムと立野ダムは何が違ったのか?(後)

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 熊本県内ではここ数カ月、川辺川ダム建設の是非を軸に、球磨川流域の治水の在り方をめぐって議論が再燃しているところだが、これに関連して、県内のとある治水ダムが存在感を増している。熊本市内を流れる一級河川・白川、その上流部(大津町、南阿蘇村)に建設されている「立野ダム」だ。立野ダムの特徴は、流水型ダム(洪水調節専門ダム)であること。流水型ダムは、通常のダムと異なり、堤体の川の高さとほぼ同じ位置に3つの穴を設置し、洪水時にその穴から水を放流。平常時には流水の貯留は行わないことで、水質など河川環境への影響を低減できるという特徴がある。立野ダム建設をめぐっては、民主党政権の誕生にともない建設事業が約2年間ストップし、その後に復活したという、川辺川ダムと似たような経緯がある。これら2つのダムを比較すると、新しい視点が見えてくるのではないか――。ということで、立野ダム建設の背景、経緯などをたどりつつ、川辺川ダム問題について、考察してみた。

2年間ダム事業がストップ

 立野ダムの建設事業がスタートしたのは1983年。87年には工事用道路の建設に着手したほか、99年には南阿蘇鉄道の軌道移設工事に着手するなど、2009年度までに全体事業費の約半分(当時)に当たる約421億円分の事業が実施済みだった。

 流水型ダムは通常の貯留型ダムに比べ、ダム上下流の水質変化が少なく、魚類などの遡上や土砂流下など、河川の連続性の確保が容易という特徴がある。国内では、益田川ダム(島根県)、西之谷ダム(鹿児島県)などで採用実績があるが、国直轄ダムでは、初の採用だった。

 ダム建設事業が進むなか、09年9月に民主党政権が発足。翌年、「コンクリートから人へ」のスローガンの下、公共事業の見直しが行われた。立野ダムも事業見直しの対象となり、いったんストップしたが、熊本市など流域市町村で構成する建設促進既成会の早期建設要望などが功を奏し、自民党が政権に返り咲いた12年12月、外部委員会による評価などを経て、「総合評価でダム案が優位であり、事業継続は妥当」として、ダム建設の継続が決まった。

 立野ダムは、民主党政権の政治的パフォーマンスによって、約2年間、事業がストップした経緯がある。この点、球磨川流域の川辺川ダムと同じ状況にあったわけだが、川辺川ダムの事業凍結がその後10年以上続いているのに対し、立野ダムは、当初のスケジュールから遅れたものの、建設工事が進められている。

洪水発生後にダム建設が復活

 立野ダムと川辺川ダムの違いの1つには、流域市町村の反応の違いがある。立野ダムは、熊本市をはじめ流域市町村が早期建設で一致していたが、川辺川ダムは、相良村や人吉市などが建設反対を表明するなど、一枚岩ではなかった。川辺川ダムのほうが立野ダムより事業規模が大きかった(事業費で3倍以上)ことも、少なからず判断に影響を与えた可能性がある。

 蒲島郁夫・熊本県知事は、立野ダムの事業継続は「異存なし」と賛成した一方、川辺川ダムは白紙撤回を表明した。時系列で見ると、川辺川ダムの白紙撤回は08年9月。立野ダムの賛成は12年10月という流れになる。

 注目したいのは、立野ダムの事業継続が決定される3カ月前の12年7月、まさに白川下流域の熊本市街地などで洪水が発生していたことだ。蒲島知事にしてみれば、実際に被害が出てしまった以上、ダム建設へ異論を唱えようがなかったのかもしれない。この点、川辺川ダムについても、今同じような経緯をたどりつつある。

 「こういう考えもある、ああいう考えもある」と延々議論を引き伸ばすのは、意味がないとはいわないが、往々にして議論のための議論に陥りがちで、時間ばかりが過ぎていくことになる。大事なのは議論の中身のはずだ。誠実な議論さえなされていれば、物事は結局、収まるべきところへ収まるものだ。立野ダムと川辺川ダムをめぐる一番の違いは、そういうところにあると思われる。

現在の川辺川ダム本体建設予定地周辺

(了)

【大石 恭正】

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