2024年05月03日( 金 )

【流域治水を考える】川辺川ダムと立野ダムは何が違ったのか?(前)

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 熊本県内ではここ数カ月、川辺川ダム建設の是非を軸に、球磨川流域の治水の在り方をめぐって議論が再燃しているところだが、これに関連して、県内のとある治水ダムが存在感を増している。熊本市内を流れる一級河川・白川、その上流部(大津町、南阿蘇村)に建設されている「立野ダム」だ。立野ダムの特徴は、流水型ダム(洪水調節専門ダム)であること。流水型ダムは、通常のダムと異なり、堤体の川の高さとほぼ同じ位置に3つの穴を設置し、洪水時にその穴から水を放流。平常時には流水の貯留は行わないことで、水質など河川環境への影響を低減できるという特徴がある。立野ダム建設をめぐっては、民主党政権の誕生にともない建設事業が約2年間ストップし、その後に復活したという、川辺川ダムと似たような経緯がある。これら2つのダムを比較すると、新しい視点が見えてくるのではないか――。ということで、立野ダム建設の背景、経緯などをたどりつつ、川辺川ダム問題について、考察してみた。

繰り返す市内での洪水被害

 熊本県中央部を流れる一級河川・白川は、阿蘇カルデラを流れ、熊本市内を抜け、有明海に注いでいる。上流域は、ほぼ全域が阿蘇くじゅう国立公園内にあり、沿岸には森林や田畑などが多いが、下流域はほぼ熊本市内中央部を通っており、川を取り囲むように住宅や商業施設などが立ち並んでいる。

 その流域は「おたまじゃくし型」とも言われ、広い上流部から下るに従って、その面積が極端に狭くなっている。この流域のカタチは、河幅や高低差とともに、白川が氾濫しやすい原因の1つとされている。

 白川の治水対策の歴史を見ると、加藤清正の時代に改修が行われたが、明治以降、大規模な改修が行われることはなかった。その結果、発生したのが「昭和28年6月洪水」だ。

 1953年6月25日から28日にかけて阿蘇地方に降り続いた雨により、白川が氾濫した。推定流量(3,200㎥/s~3,400㎥/s)とされる洪水にともない、ヨナ(火山灰まじりの砂)を含む土砂が熊本市内に流出、堆積。死者行方不明者422名、流出全壊家屋2,585戸などの被害が出た。

 80年8月29日から31日に発生した「昭和55年8月洪水」では、阿蘇黒川観測所で最大666mm(連続雨量)を記録した豪雨にともない、熊本市街部で白川が越水。死者行方不明者1名、家屋の全半壊18戸、床上浸水3,540戸などの被害が出た。90年7月1日から2日に起きた「平成2年7月洪水」でも、阿蘇山観測所で累加流量341mmに上る豪雨により、熊本市街部で白川が越水。死者行方不明者14名、家屋の全半壊146戸、床上浸水1,614戸の被害を出した。九州北部豪雨にともなう2012年7月11日から14日の「平成24年7月洪水」では、坊中雨量観測所で観測史上最大の時間雨量124mmを記録した豪雨に見舞われ、熊本市街部で白川が越水。家屋の全半壊176戸、床上浸水1,726戸などの被害が出た。

立野ダム現場

氾濫危険エリアで市街地化

 白川の治水対策をめぐっては、1954年に「白川水系改修基本計画」を策定。計画高水流量2,500㎥/sのもと、順次特殊堤工事、排水路開削などの工事を実施した。67年、白川は一級河川に指定され、同年に「白川水系工事実施基本計画」が策定されている。ただその後、地域経済の発展にともない、沿岸の土地利用が進み、とくに氾濫のリスクのあるエリアで市街地化が進行していった。白川両岸の氾濫リスクのあるエリアには、現在も多くの住居、商業施設などが立地している。

 80年になって、より安全度の高い治水計画を目指し、基本高水のピーク流量を3,400㎥/s(基準地点代継橋)とし、立野ダムなどによる洪水調節流量を400㎥/sとし、計画高水流量を3,000㎥/sに引き上げる計画が改訂なされた。2000年に策定した白川水系河川整備基本方針にもこの数字を盛り込んだ。

 02年、概ね30年間の整備目標を定めた「白川水系河川整備計画」を策定。ピーク流量2,300㎥/s、立野ダムほか洪水調節流量300㎥/s、河道流量を2,000㎥/sに設定した。20年に変更された現行の整備計画では、洪水ピーク流量2,700㎥/s、立野ダムほか洪水調節300㎥/s、河道配分流量2,400㎥/sとなっている。

(つづく)

【大石 恭正】

(後)

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