2024年04月28日( 日 )

【BIS論壇No.335】日米、機密共有で中国包囲網

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 NetIB‐Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会会長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。
 今回は2020年12月9日付の記事を紹介。 


 12月9日付の『日本経済新聞』の朝刊に、表題の「日米、機密共有で中国包囲網」が見出しとなっている記事が掲載された。米知日派とみなされる米国のアーミテージ元国務副長官、ナイ元国防次官補など超党派の有識者グル-プが12月7日に日米同盟の強化に向けた報告書をまとめたという。

 報告書は2000年に初めて作成され、今回が5回目となる。21年1月のバイデン政権発足をにらんで、とりまとめられた今回の報告書では、中国への包囲網を強化する一環として、日米両国に台湾への支援や機密情報の共有などの協力を促し、中国への懸念を鮮明にしている。

 2000年の第1次報告書では、森内閣で集団的自衛権の行使容認が実現し、有事法制整備がなされた。07年2月の第2次報告書では、安倍内閣で武器輸出三原則の緩和、ミサイル防衛の充実が実現し、12年8月の第3次報告書では、野田内閣で日米の原子力研究開発の強化、TPP交渉の参加が実現した。18年10月の第3次報告書では、安倍第2次内閣で日米合同の統合任務部隊、自衛隊の統合司令部の創設が実現した。

日米関係 イメージ 今回の提言では1940年代に英国、米国、豪州、ニュージーランド、カナダのアングロサクソン系の5カ国が結成したスパイ組織、「ファイブアイズ」―いわゆるエシュロン―に日本を加えて、機密情報の共有を広げるよう提言している。日米両国に「シックスアイズ」実現への協力を呼びかけているのだ。

 これは、強硬路線に傾く中国への対抗策の位置づけだという。台湾有事への警戒について「中国の台湾への軍事的・政治的圧力への米国の懸念を日本は共有している」と明記し、日米が協力して関与を強める必要性を唱えている。

 安倍前首相が主導した日米、豪州、インドの「自由で開かれたインド太平洋構想」の推進を高く評価し、菅首相にも路線の継承を要望しているという。本報告書においても、バイデン次期大統領にTPPへの参加を検討するように訴えている。

 上記5カ国以外のファイブアイズの「スパイ衛星」の地上ステーションは、ドイツと日本の三沢基地(青森県)にある。ファイブアイズ、とくに米国は日本の中国情報を期待していることが考えられるが、日本をファイブアイズに加えることは、日本の国家安全保障局(NSS)の情報収集力や分析能力、とくに秘密保持体制強化がファイブアイズ5カ国に比べると雲泥の違いがあり、その強化が欠かせないため、容易ではないと考えられる。

 一方、英国は対中国策として英空母群をアジアに長期で展開しており、EUも最近の香港情勢などにより、中国に対する警戒を強めつつあるため、日本をファイブアイズに入れる可能性もなきにしもあらずである。今後の動向に注目したい。


<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)

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