2024年04月20日( 土 )

西鉄天神大牟田線に謎の支障物、高架化開業延期の影響を探る(中)

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 福岡県と福岡市が事業主体として進めている西鉄天神大牟田線連続立体交差事業(以下、高架化)。当初は2020年度の高架切替を目指していたが、19年6月、県区間である春日原駅旧駅舎ホームにコンクリート基礎が埋まっていることが発覚。撤去に約9カ月の追加期間を要したことなどから、高架切替が22年度にズレ込むことになった。工期延期にともない工事費などの増加も見込まれる。高架切替延期により、どのような影響が出てくるのか。県市それぞれの現場を取材した。

約9カ月の追加期間を要した支障物の撤去作業

春日原駅ホーム周辺の様子(昨年12月下旬)

 西鉄は19年6月に、当初予定になかった支障物を発見した。支障物の正体は判明していないながらも、「撤去しても問題はない」ということで、支障物の撤去作業に入った。コンクリートの撤去には、通常ブレーカーなどで破砕するのが手っ取り早いが、作業が行えるのは基本的に夜間のみで、騒音を出せないことから断念。時間と手間はかかるが、支障物に穴を通して小分けに砕きながら、徐々に撤去することにした。当初計画より約9カ月遅れて20年7月に撤去が完了した。

 施工を担当した鹿島・大林・西鉄エンジニアリングJVの担当者は、「撤去作業は、まずホームをめくって、専門業者が入って作業を行い、クレーンで支障物を吊り出して、ホームを元に戻す。始発の電車に影響を与えないことを考えながら、これを毎夜3時間、一晩の作業量はかなり限られるが、安全最優先に約9カ月にわたって粛々と繰り返した」と振り返る。

 工期延期にともなう事業費の増加について、工事を担当する県那珂県土整備事務所の担当者は、県では20年12月の段階で「現時点で公表できる数字はない」とした。市が県に要求した工事の遅れによる追加負担についても、「それぞれの事業主体が負担せざるを得ない問題である」という。

 同じく県担当者によれば、工期延期によって、周辺住民などから県に補償を求めるなどの動きはないという。ただ、沿線自治体である春日市、大野城市では、工期延期にともなう影響が出ている。両市では開業に向けたまちづくりに関する事業を予定しているが、これらの事業着手に遅れが出るためだ。そのため、県では19年度より月に1度両市、西鉄および県で会議を重ね、「できる箇所から優先的に高架切替後の工事を前倒しで進めていく」(県担当者)としている。

 県区間では、春日原駅周辺を除けば、高架化の橋脚工事はすべて完了している。春日原駅周辺では現在、新駅舎の柱の施工を行っているところだ。西鉄の春日原連立工事事務所の担当者は、「現在は、検証委で示された新たな工程に基づき、工程管理を行っているが、今のところ順調に進んでいる。今後も、工程短縮につながる技術などを模索しながら、工程通りに進めていくことを最優先に取り組んでいく。工程通りに進めるためには、当然、安全管理も重要だ。想定外の事象が発生した場合でも、関係各者がしっかり連携して対応できるよう努めていく」と話している。

影響は「ほとんどない」、延期にともなう工程管理

 市が事業主体となる区間の工事は、「現時点では高架切替に向け、順調に進んでいる」(福岡市道路下水道局担当者)という。20年12月時点で、起点近くの井尻7号踏切部(PC桁)を除き、橋脚、橋桁の設置は完了済みだ。高架切替直前でなければ着手できない接続点の切替準備工事などについては、延期にともない遅れざるを得ないが、それ以外の工事については、今後も粛々と工事を進めていく予定だ。

 市区間の施工は、1工区(起点(北側)~雑餉隈1号踏切)は清水・安藤ハザマ・松本JV、2工区(雑餉隈1号踏切~終点(南側))は鹿島・大林・西鉄エンジニアリングJVがそれぞれ担当している。1工区は、高架部分の躯体工事はすべて完了し、軌道工事が行われている。雑餉隈駅舎の建築工事も9割近くが完了しており、ホームの天井、壁などの工事を残すのみとなっている。2工区も、20年度中に高架部分の躯体工事が完了する予定で、残るは新駅の工事となっている。いずれの工区も当初の工程通り進捗している。現在、軌道工事、電気工事などが本格的に進められている。

 高架切替は延期となったが、当初予定通りの工程であったかについては、いずれの工区も「ほとんど影響はなかった」(清水JV、鹿島JV担当者)という。ただ、高架切替後に予定している工事について、工期が1年5カ月ズレ込むのにともない、作業がない空白期間が生じる。そのためJV社員や作業員はいったん現場を離れ、再び人を呼び戻す必要がある。駅ホームや仮囲い箇所などの長期メンテナンスも必要になってくる。

完成間近の雑餉隈駅舎の様子

(つづく)

【大石 恭正】

(前)
(後)

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