2024年04月25日( 木 )

西鉄天神大牟田線に謎の支障物、高架化開業延期の影響を探る(後)

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 福岡県と福岡市が事業主体として進めている西鉄天神大牟田線連続立体交差事業(以下、高架化)。当初は2020年度の高架切替を目指していたが、19年6月、県区間である春日原駅旧駅舎ホームにコンクリート基礎が埋まっていることが発覚。撤去に約9カ月の追加期間を要したことなどから、高架切替が22年度にズレ込むことになった。工期延期にともない工事費などの増加も見込まれる。高架切替延期により、どのような影響が出てくるのか。県市それぞれの現場を取材した。

仮設踏切による渋滞の長期化への懸念

解体を前倒しする麦野跨線橋

 しかし、市担当者は「高架切替の延期による沿線住民への影響が甚大である」と指摘する。市は19年2月、筑紫通り麦野跨線橋から仮設踏切を設置した平面仮設道路への切替えを実施している。当初の予定では、電車運行中の作業を避けるため、21年3月の高架切替後、跨線橋を解体し、22年3月に仮設道路を廃止し、新たな筑紫通りの供用を開始する予定だった。

 ところが、県と市は別事業ではあるが、高架切替は同時となることから、県区間の工期延期によって、筑紫通りの供用開始も23年8月にズレ込むことになってしまう。仮設踏切ではすでに交通渋滞が発生しており、この渋滞を避けるため、生活道路を通行する車両も見られるようになっている。工期延期は、このような交通状況の長期化を意味する。周辺住民からは、市に対して「1日も早く供用開始してほしい」という声が挙がっていた。これが、市が「沿線住民への影響が甚大である」とする理由だ。

 この声を受けて市は、国とも相談しながら、高架切替後に行う予定であった線路直上部の跨線橋解体作業を前倒しして、高架切替前の21年2月から行うこととした。これにより、22年9月までに仮設道路の廃止と新たな筑紫通りの供用を開始する見込みとなった。これにより、筑紫通り供用開始は、1年5カ月の遅れから1年縮め、5カ月遅れまで短縮できることになる。

 仮設踏切は現在、遮断時間が朝夕のピークで約38分(1時間あたり)となり、交通渋滞が発生する要因となっている。このため、西鉄は遮断時間短縮策として、歩車分離踏切やATSを設置し、1回あたり5~10秒程度遮断時間を短縮する工夫を講じることとしている。その結果、ピークの遮断時間は4分半程度短縮される見込みという。

 「福岡県には、これ以上工期が遅れることのないよう、高架切替に向け、しっかりと取り組んでいただきたい」(市担当者)とクギを刺す。

想定外だからこそ求められる説明責任

 今回の工期延期にともなう問題点は何か――。市の担当者は「県と市の情報交換をもっと密にする必要があった。調整会議という会議体はあったが、結果的に表面的なものでしかなかった。西鉄や施工業者に任せるのではなく、事業主体同士、お互いもっと腹を割って話し合うべきだった」と指摘する。西鉄・雑餉隈連立工事事務所の担当者も「(県区間の工事主体である)春日原工事事務所とは工法などについてしっかり情報共有してきたが、工程管理の部分については、それが不十分だったところがあった」と振り返る。

 県では今回の反省を生かし、既存の調整会議に新たに作業部会を設置し、工事の進捗などに関する実務(係長)レベルでの「密な情報共有」(市担当者)をスタートさせている。「今回は、県区間の都合で工期延期になったが、市区間ではこのようなことが起きないよう、安心安全に気をつけながら、今の目標である22年8月の高架切替に向け、しっかり工事を進めていくことが第一だ」(市担当者)と力を込める。

 一般的にいえば、想定外の事情により、公共工事が延期されるのは珍しいことではない。16年11月に福岡市地下鉄七隈線の延伸工事で道路陥没事故が発生したのにともない、開業が当初の20年度から22年度に延期されたことは記憶に新しい。しかし、工期延期(基本的に事業費増加をともなう)を「不可抗力だった」「仕方なかった」だけで片付けてしまうと、住民などの不信感を募らせ、ひいては公共工事全般に対する反感につながりかねない。この負の連鎖を断ち切るには、工期延期に至った経緯などに関するしっかりした説明が大前提になると思われる。

(了)

【大石 恭正】

(中)

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