2024年04月25日( 木 )

所有者不明の土地、空き家問題~公共工事で発覚する深い闇(中)

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大阪経済法科大学 経済学部教授 米山 秀隆 氏

 道路の幅を広げる公共工事などで判明する持ち主がわからない「所有者不明の土地」は増え続け、その面積は全国で830km2と九州を超える広さとなっている。所有者不明の空き家は老朽化して近隣に危険がおよぶが、解体する際に自治体が費用を回収することもできないなど問題となっている事例も多い。その実態とどのように対策すべきかを見つめた。

「土地神話」崩壊後の空き家問題

 増え続ける全国の空き家は現在約849万戸におよび、空き家率は13.6%(2018年総務省「住宅・土地統計調査」)。買い手、借り手を募集せずそのまま置かれている空き家約340万戸(※1)の大半は木造戸建住宅で、築40年以上が約3分の2を占める(国交省推計)。

 空き家は相続で取得されるケースが半分以上を占め、中古物件としての価値をもたないことが空き家の増加の原因となっている。木造戸建住宅の解体費用は約200万円で、解体して更地に戻すと土地の固定資産税が約3~6倍となり、空き家のままのほうが固定資産税が安いこともその理由だ。2015年に空き家など対策特別措置法で、倒壊などの恐れがある特定空き家として行政から勧告を受けた場合は更地なみに課税されることとなった(2018年度の勧告は全国で363件)が、まだ大きな効果は見えていない。

 町おこしが盛んな徳島県神山町では、移住者が増加して住宅が足りないため、「お家長生きプロジェクト」で、住民の生前に空き家バンクへの登録の意思確認を行っている。空き家になったときには町が賃貸、売買を支援することで所有者不明化を防ぎ、引き継ぎしやすくしているのだ。また、自治体の空き家バンクはほぼ「開店休業」もあるなか、長野県佐久市の空き家バンクでは、首都圏に近く移住者が多いことが功を奏し、仲介会社に扱われない物件も低価格で貸し出す取り組みが効果を生んでいる。2018年以降で約400件の空き家を成約させてきたという。

 さらに、兵庫県神戸市は10月に、利用の見込みがなく放置された空き家の固定資産税の優遇を21年度から廃止し、更地と同じ約3.5倍とする方針を発表した。これによって早期の空き家の解体、売却が増えると予想される。全国にこの方針が広がれば、空き家の問題も少しずつ解決に向かう可能性もある。

 バブル崩壊までの、地価が値上がりし続ける「土地神話」の時代は、交通が多少不便な立地の悪い条件でも土地つきの家をもつことが多かったが、「土地神話」は崩壊し、どの土地も値上がりし続けるということはなくなった。郊外や交通の便がよくない場所では、子どもは別の場所に住むなど引き継がれないケースも多い。

 米山氏は「土地・住宅制度は地価が上昇を続ける前提でつくられため、人口減少で空き家率が上がり、将来的には住宅が余る可能性があるなか、解体費用を誰がどう負担するかなど制度を見直す必要がある」「たとえば、定期借地権付賃貸マンションでは、50年などの借地契約終了後に解体して土地を所有者に返すため、解体準備金が1戸あたり200万円ほど積み立てられる。もし、戸建やマンションでも固定資産税に解体費用を一定期間、上乗せして積み立て、解体時に自治体から払い戻す方法を取れば、所有者不明となっても解体費用の懸念はなくなり、問題も起こりにくくなるだろう」と話す。

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 住宅の建設時に解体、建替えコストを見込むと「持つコスト」が高くなりがちだ。となると、地価が高く将来必ず買い手がつく土地でなければ、負担や責任の大きさから住宅を買わずに済ますという選択を選ぶ人が増える可能性もある。

(つづく)

【石井 ゆかり】

空き家の種類

二次的住宅
 別荘およびその他(たまに寝泊まりする人がいる住宅)
賃貸用または売却用の住宅
 新築・中古を問わず、賃貸または売却のために空き家になっている住宅
その他の住宅
 上記の他に人が住んでいない住宅で、たとえば、転勤・入院などのため居住世帯が長期にわたって不在の住宅や建替えなどのために取り壊すことになっている住宅など

※1:空き家数の推移のグラフ中の「その他の住宅」。 ^


<PROFILE>
米山 秀隆
(よねやま・ひでたか)
米山 秀隆 氏大阪経済法科大学経済学部教授。1963年生まれ。86年、筑波大学第三学群社会工学類卒業。 89年、筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了後、(株)野村総合研究所、(株)富士総合研究所、(株)富士通総研経済研究所を経て現職。住宅・土地政策、空き家問題を専門としている。主な著書に『捨てられる土地と家』(ウェッジ)、『世界の空き家対策』(学芸出版社、編著)、『限界マンション』『空き家急増の真実』(日本経済新聞出版社)などがある。

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