2024年04月30日( 火 )

コロナがどんなかたちでも必ずやるは大間違い

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を抜粋して紹介する。今回は、「五輪開催強行は大間違いだ。変異株の国内流入と感染拡大のリスクによって被害を受けるのは日本の主権者だ」と訴える2月16日付の記事を紹介する。

東京五輪組織委員会会長人事が再び密室で始動した。
森喜朗氏が女性蔑視、女性差別の発言を示し、引責辞任に追い込まれた。

公的機関のトップが引責辞任したのだから、当然、記者会見に応じるべきだったが、2月12日の記者会見に森氏は姿を現さなかった。
会見に出て再び逆切れ会見を行うことから逃避したのだと思われる。

森氏引責辞任でありながら、正規の手続きを踏まずに森氏が、菅首相、安倍前首相、小池東京都知事、武藤敏郎組織委事務総長だけに相談して、「密室」で後任会長に川淵三郎氏を就任させることを主導した。
引責辞任するのに、自分自身が相談役に就任することまで画策されていた。

この「密室人事」の概要を川淵三郎氏が外部に「漏洩」したため、人事は白紙に戻された。
川淵氏の口の軽さが密室人事挫折をもたらしたことは滑稽だ。
この顛末で組織委の根本的問題が浮き彫りになった。

組織委の根本的問題とは、組織委の意思決定が民主的で開かれた意思決定とかけ離れていること。
森氏は「女性が入ると会議が長くなる」「組織委の女性はわきまえている」と述べたが、女性蔑視という問題と別に、組織委員会の独裁的性格が根本問題だった。

密室で最高幹部が内定した事項に意見を述べること、反対すること、異論をさしはさむ行為は「わきまえていない行動」として排斥されていたのだ。

スポーツ報知は組織委理事の、
「組織委は森会長、武藤事務総長ら一部のほうが、ほとんどのことを決めて、理事はその決定事項を会議で聞かされているという流れ。
せっかく、さまざまな分野から集まってきているのだから、もっと意見の交換をすることが必要だと思う」
という言葉を紹介した。

森氏の後任会長に川淵三郎氏を選出しようとしたことが明るみに出て、人事案は撤回に追い込まれた。
川淵氏が口の固い人物であったなら、密室人事が押し通されていた疑いが強い。

森氏主導の密室人事に批判が沸騰したため、人事に関与したと見られる菅首相や武藤事務総長があわてて人事案の白紙撤回を主導し、正義の行動者であるかのように振る舞っていることも滑稽だ。

このなかで、武藤敏郎事務総長は2月12日の記者会見で、
「国民にとって透明性のあるプロセスでなければならない」
と述べた。

ところが、組織委員会は宣言と真逆の決定をした。
後任を絞り込む選考委員会メンバーを非公表とすることを決定した。
新種詐欺のような話。

「透明性のあるプロセス」を謳うなら、選考委メンバーならびに選考委検討内容を公開すべき。
密室協議批判が沸騰してプロセスを透明にすると宣言しながら選考過程を密室にするのは、冗談にもならない。

選考委員名公表が重要なのは、政治権力のロボットメンバーの有無をチェックする必要があるから。
選考委メンバーが「御用委員」なら、適正な人選が行われる可能性は消滅する。

組織委会長に求められる条件は五輪経験などでない。
オリンピズムの根本原則を正しく理解し、その根本原則に沿って適正に行動できるかどうかが重要なのだ。

オリンピズムの目的は、
「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てること」
「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために」、
「スポーツを役立てること」
がオリンピズムの目的であって、その逆でない。

森氏は
「コロナがどういうかたちであろうと(五輪を)必ずやる」
と述べたが、この発言は完全に間違っている。

新会長は、オリンピズムの目的を正しく理解し、行動できなければならない。
オリンピズムの目的を正確に理解し、正しい意見を表明してきた唯一のJOC理事が山口香氏だ。

山口氏は、
「五輪後の日本は、どうなるのでしょうか。
変異種を含めたウイルスが一気に持ち込まれて、冬に向かって感染が再拡大する可能性も十分に考えられます。
そうした事態をみんなが恐れていて、そのことが世論調査『反対8割』として表れているんだと思います。
世論調査によると、国民の約8割が『五輪を開催すべきではない』と考えてい
ます。
このことは重要視すべきです」
と述べた。

これこそ、オリンピズムの目的の正しい理解に基づく発言だ。
山口氏が後任会長にもっともふさわしい。
少なくとも、選考検討委員会メンバーに山口氏が起用される必要がある。

無理やり五輪を開催することは不可能でない。
犠牲を国民に押し付ければ済むだけのこと。
五輪開催強行には、変異株の国内流入とそれにともなう国内での感染拡大リスクが付随する。

そのリスクによって被害を受けるのは日本の主権者だ。
国民を犠牲にする前提なら何でもできる。

組織委の森喜朗氏、武藤敏郎氏、評議委員会の川淵三郎氏、JOCの山下泰裕氏のこれまでの発言は、
「何が何でも五輪をやる」
に近い。

体操選手の内村航平氏が述べた
「『できない』ではなく、『どうやったらできるか』を皆さんで考えて、どうにかできるように、そういう方向に変えてほしい」
の言葉は、アスリートの側からの
「何があっても五輪を開催してほしい」
との願望を示したもの。

アスリートがそのような願望を示すのは理解できる。
しかし、組織委がアスリートの希望、願望だけを聞いて、五輪開催ありきで行動することは正しくない。

「五輪のための世の中」
ではなく
「世の中のための五輪」
というのがオリンピズムの目的であるからだ。

これまでの組織委は、「五輪開催ありき」で動いてきた面が強い。
この意向をいさめる言動はご法度とされてきた。

その「圧」のなかで、山口香理事は、昨年春の段階でも、冷静に五輪開催時期の延期の必要性を表明した。
そして現実に五輪は延期された。

山口氏発言は「先見の明」として称賛されるべきもの。
しかし、山口氏は組織委の森喜朗氏やJOCの山下泰裕氏からの批判を浴びた。
どちらの主張が正しかったのかはいうまでもない。

JOC会長・竹田恒和氏が贈賄容疑問題に関連して退任し、後任会長に山下泰裕氏が起用された。
森氏の意向が反映されたもの。
山下氏がJOC会長に就任した直後、JOCは理事会密室化を決定した。
会議を非公開に変えた。

これに異を唱えたのが山口香理事だ。
山口香氏を筆頭に4名の女性理事が理事会密室化に反対した。
結局、多数決で理事会密室化が決定されてしまったが、このときの議論を森喜朗氏が不快に感じていたと推察されている。

森氏が2月3日評議員会で発した
「女性が入ると会議が長くなる」
「女性は競争意識が強い」
「1人が発言すると自分も発言しようとする」
の差別発言は、JOC理事会密室化討議に際しての山口理事らからの反論提示を念頭に置いたものだと見られている。

日本の主権者の8割が昨今の状況を踏まえて五輪開催を拒絶している。
五輪開催にともなうリスクを国民が負わされるからだ。

この国民の声を無視する組織委員会の会長人選、何が何でも開催強行の姿勢に正当性が皆無であることを、改めて確認する必要がある。


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植草一秀の『知られざる真実』

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