2024年04月20日( 土 )

別府市のマンション設計偽装~大分県は早急に県内の建物調査を行うべき(3)

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 構造設計一級建築士・仲盛昭二氏が所有する大分県別府市の分譲マンション「ラ・ポート別府」について、2021年1月25日付けの仲盛昭二氏からの文書に対して、回答期限の2月8日を過ぎても広瀬大分県知事からの回答はなかった。大分県内に、建築基準法令を満たしていない建物や耐震性が劣る建物が存在している可能性が高いという指摘に対して、大分県の対応はあまりに無関心すぎるのではないか。仲盛氏に事情と意見を聞いた。

(聞き手:桑野健介)

1階柱の鉄筋量が60%も不足!

 ――分譲マンションの「ラ・ポート別府」の構造上の問題点について、具体的に教えてください。

 仲盛 ラ・ポート別府は何点かの構造上の問題点があります。1階の柱18本すべての柱脚鉄骨が非埋め込み形柱脚(ピン柱脚)となっています。この柱脚形式の場合、1階柱脚の鉄量(鉄筋とアンカーボルトの断面積の合計)が1階柱頭の鉄量(鉄骨と鉄筋の断面積の合計)と同等以上でなければならないと規定されています。しかし、ラ・ポート別府の柱符号C5を例に挙げれば、柱頭の鉄量189.37cm2に対して柱脚の鉄量は75.61cm2であり、規定の39.9%の鉄量しかありません。60.1%もの鉄量不足の状態となっています。

 柱の鉄骨をベースプレートの下の土台または地中梁に埋め込まない構造(非埋め込み形=ピン柱脚)の場合、ベースプレートより上部は鉄骨が入っていますが、鉄骨鉄筋コンクリート部とアンカー部では軸方向耐力や剛性に差が出てしまい、アンカー部が弱点となります。

 また、引張力を受けた場合に、鉄骨鉄筋コンクリート造ではベースプレートがそれより上部のコンクリートをもち上げるため、ベースプレート部分に引張力が集中します。この状態を避けるため、柱脚には柱頭と同等以上の鉄量(鉄筋量)が必要なのです。

 ――非埋め込み形柱脚の鉄量に関する文献はありますか。

 仲盛 『建築物の構造規定』(日本建築センター編、建設省監修)によれば、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)の1階鉄骨柱の柱脚が非埋め込み形柱脚である場合、柱脚の鉄量(鉄筋とアンカーボルトの断面積の合計)を、柱頭の鉄量(鉄骨と鉄筋の断面積の合計)と等量以上にしなければならないと定められています。これは、非埋め込み形柱脚の場合、柱脚部分に鉄骨が存在しないので、柱脚における急激な耐力の低下を防止するためです。

 柱が引張を受けた場合に、ベースプレートが上部のコンクリートをもち上げて、変形がアンカー部に集中し、ベースプレート下に大きなひび割れが入り、その部分のアンカーボルトと鉄筋が集中的に伸びることを防止することを目的とした規定です。

 1階鉄骨柱脚が非埋め込み形柱脚(ピン柱脚)であるので、保有水平耐力計算における1階の構造特性係数(Ds)は、SRC造の係数(RC造よりも0.05低減)ではなく鉄筋コンクリート造(RC造)の係数を用いなければならないと規定されています。ラ・ポート別府は1階柱脚の鉄筋量が60%も不足している異常な設計となっていることから、RC造の構造特性係数が用いらず、非埋め込み形柱脚として適切な構造計算が行われていないことは、構造計算書を見なくても容易にわかります。それほど、次元の低い設計が行われているのです。

 大分県が、設計図書を見ることなく「当時の基準を満足していた」と根拠のない回答をしていることは、大分県内の鉄骨鉄筋コンクリート造の建築物の実態とかけ離れた空想にすぎません。

(つづく)

【桑野 健介】

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