2024年03月19日( 火 )

別府市のマンション設計偽装~大分県は早急に県内の建物調査を行うべき(4)

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 構造設計一級建築士・仲盛昭二氏が所有する大分県別府市の分譲マンション「ラ・ポート別府」について、2021年1月25日付けの仲盛昭二氏からの文書に対して、回答期限の2月8日を過ぎても広瀬大分県知事からの回答はなかった。大分県内に、建築基準法令を満たしていない建物や耐震性が劣る建物が存在している可能性が高いという指摘に対して、大分県の対応はあまりに無関心すぎるのではないか。仲盛氏に事情と意見を聞いた。

(聞き手:桑野健介)

 ――構造特性係数について詳しく教えてください。

 仲盛 「構造特性係数(Ds)」とは、保有水平耐力計算においてその建物に必要とされる「必要保有水平耐力(Qun)」を求める際の係数であり、Dsの値が大きいほど、その建物にはより大きな耐力が要求されます。

 SRC造は、鉄筋コンクリート部材の内部に鉄骨が存在するため、鉄骨の靭性(ねばり強さ)を考慮して、必要保有水平耐力計算を求める際の構造特性係数(Ds)を、RC造の場合よりも0.05低減しても良いことになっています。

 当然のことながら、1階柱の柱脚は固定(埋め込み)であることが前提です。「ラ・ポート別府」の鉄骨柱脚は、図面で明らかなように、埋め込みではなくピン柱脚(非埋め込み)となっているので、必要保有水平耐力を求める際の構造特性係数(Ds)を、SRC造として低減することはできません。

 ラ・ポート別府の設計当時でも、SRC造の柱脚は埋め込み(固定)とすることが一般的でした。やむを得ずピン柱脚とする場合は、RC造の構造特性係数を採用すべきであることはいうまでもありません。

 建築確認審査の基準書となっている『建築物の構造関係技術基準解説書』には「鉄骨を非埋め込み柱脚とする場合、その柱を鉄筋コンクリート造とみなしてDsを算定する」と明記されています。

 ――ラ・ポート別府は、1階鉄骨柱脚が埋め込まれていない「非埋め込み形柱脚」でありながら、RC造の構造特性係数はなく、不正に低減されたSRC造の係数が用いられていた可能性が高いということですね。

 仲盛 1階だけでなく2階から上の階についても、別の理由で構造特性係数の不正が考えられます。ラ・ポート別府の柱(全18本中12本)は、耐震壁方向に鉄骨が存在しない構造形式となっているので、保有水平耐力計算を行う際に耐震壁方向の構造特性係数はSRC造の係数ではなく、RC造の構造特性係数を採用しなければなりません。

 建築物の耐震強度を求める保有水平耐力計算の計算式は、建築基準法施行令第82条の3に規定されており、計算式の係数である構造特性係数(Ds)については、建設省告示(昭55)第1792号に詳細に定められています。

2階より上階の柱の鉄筋量も47%不足!

 ――2階より上の階の柱についても、不適切な設計が行われていた可能性が高いということですね。

 仲盛 2階から上の階の柱の設計が不適切であることに関しては、背景があります。それは、柱の鉄筋量(主筋)が47%も不足しているということです。

 建築基準法施行令77条6項は、「鉄筋コンクリート造の柱の主筋の断面積の和はコンクリート断面積の0.8%以上」と定めています。しかし、ラ・ポート別府の柱C7を例にとれば、下記の通りです。

 柱断面積は80cm×80cm=6400cm2  
 主筋(6-D22+2-D16)断面積の和は27.2cm2(3.87×6+1.99×2)  
 27.2cm2 / 6400cm2 = 0.425% < 0.8%・・・NG
 0.425% / 0.8% = 0.53・・・47%の鉄筋不足

 柱の鉄筋が47%も不足した設計が行われているので、保有水平耐力計算において、適切にRC造の構造特性係数(Ds)が採用されているとは考えられません。これは構造計算書を見なくても容易に想像できます。

 ――柱に必要な鉄筋量の半分しかないということは、耐震性も半分と考えられるのではないでしょうか。

 仲盛 例に挙げた柱C7の場合、建築基準法施行令に定められた鉄筋量とするためには、径がD25の鉄筋で7本追加しなければなりません。1フロア12本の柱において鉄筋不足となっているので、大まかにいえば、マンション全体で840本もの鉄筋不足ということになります。

 先ほど話したように、建物の足元部分である1階の柱の鉄筋量は60%も不足していますから、震度6強以上の地震が発生した場合、1階から崩壊することも考えられます。1階が崩壊すれば2階より上の住人の避難が困難であり、万が一、火災が発生すれば最悪な事態となります。

 また、マンションが倒壊してしまえば、隣接する建物や通行人などに被害を与えるので、マンションの区分所有者は加害者という立場になってしまいます。

(つづく)

【桑野 健介】

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