2024年04月29日( 月 )

【凡学一生の優しい法律学】東北新社の国会答弁、無法国家を露呈(後)

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公文書の作成と保管の問題

 なぜ、このような無茶苦茶な議論を展開するのだろうか。それは枝野代表が行政手続法を理解していないからではないだろうか。

 行政処分が成立するための手続きに関する法律が、行政手続法である。その基本概念の1つに「申請と受理」がある。この段階での応答を「窓口受理処分」という。窓口受理処分が成立するためには、法令で定めた要件を満たすことと、それを証明する資料の提出が求められる。この段階はあくまで受理処分であり、さらに内部の検討審査を経て最終処分が決定される。

 東北新社の問題の争点である株主比率についても、当然、窓口審査でチェックされる。従って、担当公務員の記憶の問題というレベルではなく、窓口受理の手続きに関する記録の問題となる。

 通常は書面で行われるため、申請書類の作成と保管が必要となる。つまり、公文書の作成と保管の問題であり、これを定めているのが公文書管理法だ。日本の行政庁は例外なく、公文書管理法に準拠した文書管理規定を整備している。

 窓口受理した申請書と証明資料が再度内部で確認され、内部決定されれば、その決定書の複写を決定処分として申請者に交付する。そのうえで、正式な行政処分が成立することになる。

成立しない東北新社の免許取消

 株主比率を隠して虚偽の証明資料を添付し、免許を詐取したのであれば、その後の子会社への免許資格の移転などは必要なく、移転に関する事実は存在しないはずだ。総務省が子会社への免許資格の移転を条件に免許を認可したかどうかは、処分を出した際に内部決定された記録文書に記載されている。そのような免許の認可が適法かどうかという問題が残るだけである。どう転んでも、東北新社の免許を取り消すという論理は成立しない。

 枝野代表が問題にすべきことは、免許手続きの内容である。それは公文書として作成され保管されている内部資料の開示によって確認できる。その内容次第で、担当公務員の違法行為・犯罪行為の有無が判断されることになる。

 今回の事件で存在するのは公務員の違法行為のみであり、東北新社の詐欺行為が存在する余地はない。

裏取引の可能性も?

 国が東北新社の免許取消処分を発出するまでには、相当の時間がかかるだろう。なぜならば、取消処分を出して東北新社が異議申し立ての行政訴訟を起こした場合、国が敗訴するからである。東北新社との裏取引が成立し、世間の関心が薄れた頃合いを見計らって、一件落着させる可能性がある。

 武田総務大臣は国会でこう述べた。「一方の当事者の言い分だけを信じて事を進めれば取り返しのつかないことになるので、この際、第三者委員会で真実を究明して事の処理にあたりたい」。

 この説明は、東北新社の言い分にも、担当公務員の言い分にも加担しない中立公平の立場であるかのように聞こえる。しかし、法に基づいて行政処分が発出され、記録と保管が行われていれば、そもそも「喧嘩両成敗」が成立する余地はない。

(了)

(前)

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