2022年07月06日( 水 )
by データ・マックス

創立以来の苦境に立つ劇団わらび座 ミュージカル「北斎マンガ」で復活を期待(前)

 新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、最大の危機に直面している劇団わらび座。生き残りをかけてさまざまな取り組みを行っているが、ミュージカル「北斎マンガ」で描かれた画狂老人・葛飾北斎の生きざまにこそ、再生のきっかけがあるのではないだろうか。

地域とともに生きるわらび座

上:わらび劇場/下:温泉ゆぽぽ

 田沢湖の水はどこまでも深く清く、角館に並ぶ武家屋敷はかつての尚武の気風を今に伝える。秋田空港から車で80分ほど、林や田畑の間を走るドライブを楽しむと、見えてくるのが「あきた芸術村」だ。東京でその歴史の幕を上げた劇団わらび座が、ここ秋田県仙北市に根を下ろして約70年。

 「生活必需品としての文化芸術」を目指したわらび座の創設者・原太郎氏は、秋田の人々の生活のなかに根づいた歌や踊り、舞を見て、「秋田は民俗芸能の宝庫だ」とこの地に惚れ込んだ。それから70年の歴史を経て、年間約25万人の観客動員数を記録し、劇団四季、宝塚歌劇団につぐ日本で3番目の劇団となった。

 1977年には農業体験修学旅行を開始。わらび座の舞台鑑賞、俳優たちの指導による舞踊体験、農家での民泊、農作業体験をパッケージにしたプログラムは、今でいうグリーンツーリズムの先駆けといえる。事業の開始以来、30万人を超える子どもたちが農業体験修学旅行でわらび座を訪れている。

 そして、現在拠点としている「あきた芸術村」が誕生して25年になる。かつては地元からよそ者と見られていたわらび座は、今では地域コミュニティの欠かせない一員となっている。

田沢湖ビール

 「あきた芸術村」には、わらび座の常打ち小屋「わらび劇場」や劇団関係の施設に加えて、温泉ホテル「温泉ゆぽぽ」、自社醸造の地ビールを生産する「田沢湖ビールブルワリー」、木工体験を楽しめる「森林工芸館」、ブルーベリーの摘み取りを体験できる「エコニコ農園」などさまざまな施設が集積。滞在型総合リゾートとして多くの観光客を呼び込み、また地域の雇用や経済循環に貢献してきた。

 2017年、筆者が取材に訪れたあきた芸術村には、たくさんの笑顔があふれていた。県内外の大勢の観劇客が観光バスで訪れ、「あきた芸術村」で過ごす楽しい時間を満喫していた。

コロナ禍で試される70年の蓄積

 だが、20年に入り、牙を剥いたコロナ禍がすべてを変えてしまった。昨年2月、3月とわらび劇場での公演は中止。さらに、卒業式や転勤などにともなう「温泉ゆぽぽ」での宴会・宿泊が軒並みキャンセルとなった。わらび劇場と全国の劇場で毎年約1,000公演を行っていたが、昨年は全国ツアーの売上が前年比で7割減に。あきた芸術村の大きな収入源でもあった修学旅行もキャンセルが相次いだ。

 5月、6月には運転資金がショートする公算が大きいと知った(株)わらび座の山川龍巳社長は、「これまで先人たちが人生をかけて守り、発展させてきたわらび座の火が消えるのではないか」という底知れない恐怖に襲われたという。

 現在のところ秋田県では、新型コロナウイルス感染症の大規模な流行は見られていない。今年3月17日現在の感染者数は累計で272名。そのうち262名が退院し、病床使用率も0.9%だ。

 それにもかかわらず、秋田県の経済、とくにあきた芸術村に与えた打撃はあまりにも大きい。秋田県を訪れる旅行者のうち延べ宿泊者数を見ると、昨年1月が前年同月比6.0%減、2月が同14.6%減、3月が同33.7%減と減少傾向に。7都府県に緊急事態宣言が発出された4月は同80.5%減、5月には同86.5%減と大幅な落ち込みを記録した。GoToトラベルが本格的にスタートした10月は同0.4%増と持ち直したものの、翌11月には再び同4%減に転じた。今年1月、再び緊急事態宣言が出され、悪影響が続くことは否めない。

わらび座みんなのオンライン修学旅行

 この苦境を乗り越えるために、わらび座ではさまざまな取り組みを行っている。昨年11~12月に行われた「わらび座みんなのオンライン修学旅行」は、農家体験修学旅行のオンライン版だ。伝統の踊りや稲刈りなどの体験、俳優とのトークなどをZoom上で行った。後日、わらび座の劇団援農部隊が育てた「わらび座育むお米」が参加者に届けられた。

 「わらび座育むお米」は通信販売によっても提供されている。わらび座では地元の農村に深く溶け込むことを目的とする劇団援農部隊が、農家の農作業をサポートしている。売上は、秋田の芸能文化育成や修学旅行生の農家体験、子ども舞台芸術サポート事業など、わらび座の「心を育む活動」に使われる(ご注文・問い合わせは電話:0187-44-3905/yupopo-shop@warabi.or.jpまで)。

(つづく)

【深水 央】

(後)

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