ともに発展してきた県都と泉都、大分&別府の今昔、そして未来は――(4)
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熊八翁の功績で泉都・別府が全国区に
別府市では、大正時代から昭和初期にかけては別荘地としての開発も進み、多くの文化人・財界人が別府に別荘を構えた。とくに著名なのは、炭鉱王・伊藤伝右衛門が建てた「赤銅御殿」や、同じく炭鉱王・麻生太吉が建てた「麻生別荘」などだ。また、駅や港の周辺に商店や劇場、芝居小屋などが建ち並ぶ歓楽街が形成されていったほか、海地獄、血の池地獄、龍巻地獄などの温泉に由来する奇景「地獄」が観光施設として次第に整備。23年7月には逓信省の命を受けた日本航空輸送研究所によって、別府~大阪間で水上飛行機による定期航空路が開設された。さらに、26年2月には温泉と少女歌劇を呼び物として「九州の宝塚」ともいわれた遊園地「鶴見園」が開園。29年9月には当時はまだ珍しいケーブルカーを備えた遊園地「別府遊園」(現・ラクテンチ)がつくられるなど、観光温泉都市として順調に発展を遂げていった。
なお、泉都・別府の発展の歴史をたどるうえで、「別府観光の父」と呼ばれる油屋熊八の功績を抜きには語れない。大正から昭和初期にかけて活躍した熊八は、「山は富士、海は瀬戸内、湯は別府」というキャッチフレーズで別府をPRするほか、今ではよく知られる温泉マーク「♨」を別府温泉のシンボルマークとして愛用して広めたり、別府にゴルフ場をつくって温泉保養地とスポーツを組み合わせた新しいレジャーの在り方を提示したりと、さまざまなアイデアを打ち出していった。別府地獄めぐりの観光バスに、日本初となる女性バスガイドによる案内を付けたのも熊八だ。しかもこれらの別府温泉の宣伝に使われた費用は、すべて熊八個人の私財と借財でまかなわれたというから驚きだ。2007年11月にはJR別府駅前に熊八のブロンズ像が建てられ、その偉業は今なお称えられている。
こうした熊八の活躍もあり、泉都・別府の名は一躍全国に知られるようになった。28年4月開催の「中外産業博覧会」や、37年3月開催「別府国際温泉観光大博覧会」などでも多くの入場者を集めたとされ、ヘレン・ケラーをはじめとした欧米の著名人も来訪。「東洋のナポリ」「世界の湯の都」などと称されるまでになった。
大空襲で壊滅の大分と、空襲を免れた別府
明治期以降、それぞれの地域の個性に合わせた発展を遂げてきた大分と別府だが、やがて軍靴の音とともに、まちの様子も変わっていった。
とくに影響が大きかったのは大分で、明治末期の08(明治41)年にすでに大分歩兵第72連隊が開設されていたこともあって、38年12月には呉鎮守府所属の大分航空隊が設置。これにともない、海軍の航空機の整備、修理、補給、生産を担う軍需工場の第11海軍航空廠大分分廠が開設され、まちは軍事基地の様相を深めていった。また、経済統制下で、前出の一丸デパートとトキハは合併を指示されたが、一丸デパート側は拒否し、43年9月に廃業となっている(トキハは現在も存続)。
別府にも、29年から40年までの間に日本海軍の連合艦隊がたびたび入港。33年2月には1万トン級の最新鋭重巡洋艦を中心とした艦隊など数十隻が別府湾に停泊し、沖合に並んだ艦船から上陸してくる将兵によって、別府のまちは海軍一色となったとされる。
第二次世界大戦末期には、大分の軍施設を標的として米軍による空襲が繰り返された。なかでも、45年7月の大分大空襲では百数十機のB-29爆撃機が飛来し、2万発を超える焼夷弾を投下。一夜にして大分市の中心部は焼野原となった。
一方の別府市だが、観光地・温泉地として世界的に名が知られていたことが功を奏したようだ。真相は定かではないが、「戦争終了を見越した米軍が、傷病兵士の保養所として温泉を利用するために爆撃を避けた」という噂もあるなど、隣接する大分市とは裏腹に、空襲などによる被害はほとんどなかったとされる。
終戦間もない45年10月には米第5海兵師団第5戦車大隊が大分市に進駐し、先遣隊が兵舎建設の下見で別府を訪問。翌46年12月には接収した別府公園に設けた駐屯地「キャンプ・チッカマウガ」での駐屯を開始した(駐屯地は57年に日本に返還)。すると、別府の歓楽街に米兵向けの施設が立ち並ぶなど、一時は占領都市「BEPPU」となった。その一方で大分・別府の両市では、戦後復興の動きもスタートしていった。
(つづく)
【坂田 憲治】
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